皆さん、こんにちは!
富士通ラーニングメディア デジタル人材育成ソリューション事業本部の吉田です。
このコラムは、プロジェクトマネジメントや品質マネジメント、上流工程について執筆するシリーズの第12弾です。(前回までのコラムはこちら(注1))
皆さんは「良い品質」と聞いて、どんなイメージを思い浮かべますか?
お客様に喜ばれる、最高の製品やサービスを提供したい!と、誰もがそう願い、仕事に取り組んでいることと思いますが、一歩立ち止まって考えてみると、その「良い品質」の基準は、チーム内で本当に共有されているでしょうか? もしかしたら、人それぞれ、漠然としたイメージのまま提供してしまっているかもしれません。
不具合が少ないこと、最新技術を使っていること、デザインが美しいこと、性能が良いこと・・・これらは確かに品質の一部です。しかし、本当の意味での「良い品質」とは、それだけではありません。
品質とは、製品やサービスに関わるすべての人々(ステークホルダー)の期待に、どれだけ深く寄り添い、応えられたかによって評価される、奥深く、多面的な概念なのです。そして、「良い品質」を追求する道のりは、決して簡単なものではありません。
では、一体どうすれば、顧客に心から満足してもらえる「良い品質」を生み出し続けられるのでしょうか?
今回は、この「良い品質」について一緒に考えていきましょう。
「良い品質」とは、一言でいえば「製品やサービスを通じて、ステークホルダーの期待に応えること」です。ステークホルダーとは、製品やサービスを受ける人、あるいは製品やサービスを作る人のように、製品やサービスに関わる全ての人々を指します。
例えば、皆さんがアイスクリーム屋さんを営んでいるとしましょう。この場合、アイスクリームを買ってくれるお客様はもちろん、牛乳や砂糖、果物などの材料を供給してくれる酪農家や卸売業者、アイスクリームを作る機械を製造するメーカー、さらには販売する従業員もステークホルダーです。
お客様が「冷たくて、濃厚なミルクの味わいが楽しめるアイスが食べたい」と期待していれば、それに合ったアイスを提供することが、お客様にとっての「良い品質」となります。
しかし、この「良い品質」を追求するあまり、「過剰品質」に陥らないよう注意が必要です。過剰品質とは、ステークホルダーの期待を大幅に超える、あるいは必要以上の品質を提供することです。
先ほどのアイスの例で言えば、お客様が「冷たくて、濃厚なミルクの味わいが楽しめるアイス」を求めているにもかかわらず、見た目の豪華さも重要だろうと、アイスに食用の金粉を大量に散りばめることは、過剰品質にあたります。確かに見た目の豪華さは増しますが、お客様が求めているのは「冷たくて、濃厚なミルクの味わいが楽しめるアイス」であり、金粉はアイスの味に直接貢献せず、価格を不必要に高騰させるだけです。このような過剰な付加価値は、お客様の期待とは異なる方向へ進み、結果的に誰も得をしない状況を生み出すことがあります。
皆さんがその店の顧客の立場だったら、どう感じるでしょうか。もし私なら、「金粉はいらないから、その分、もっと安くて美味しいアイスを提供してほしい」と感じるかもしれません。
ステークホルダーの期待は、時に言葉で明確に表現されず、暗黙の了解や曖昧な認識として存在することもあります。だからこそ、品質管理の第一歩は、ステークホルダーとの徹底的なコミュニケーションにあります。彼らの真のニーズを掘り起こし、チーム全体で共有することが重要なのです。
ステークホルダーの期待を丁寧に把握したら、いよいよそれを現実のものとするための具体的な道筋を描き始めます。その指針となるのが、【品質計画】です。品質目標、品質指標、レビュー計画、検証計画、標準化、品質管理体制、会議体、教育・育成・・・これらの要素は、決して独立したものではありません。これらは全て、ステークホルダーの期待に応えるために、互いに連携し、支え合う具体的な手段なのです。
品質目標は、ステークホルダーの期待に応えるための目指すべき状態を明確に示し、品質指標は、現在の状況が品質目標にどれだけ近づいているかを測るための基準となります。
レビュー計画と検証計画は、品質指標の値を確実に満たすための重要なプロセスであり、標準化は、チーム全員が同じ基準で作業を進めるための共通ルールです。
これにより、個々のメンバーがステークホルダーの期待する品質レベルと、それを実現するための共通ルールを正確に理解し、同じ基準で作業を進めることが可能になります。これらの計画を遂行することで、品質指標の改善に繋がり、ステークホルダーからの信頼獲得に貢献します。
さらに、品質管理体制は、誰が品質に責任を持って見る(診る、看る)のかを明確にし、会議体は、進捗状況を確認し、問題点を共有・解決するための場となります。
そして、教育・育成は、メンバー一人ひとりのスキルを高め、適切な品質の製品やサービス提供を可能にするために必要です。
例えば、先ほどのアイスクリーム屋さんの場合、お客様の求める美味しいアイスのレシピが用意されていたとしても、作る人がそれぞれ自分のやり方でアイスを作ってしまったら、それはお客様が求めているものとは違ってしまいますよね。お客様が求めている美味しいアイスを作り続けるために、レシピを忠実に守る必要があるのです。
これら全てが有機的に結びつき、詳細な計画として機能することで、私たちは「良い品質」という目標を、迷うことなく、そして確実に達成することができるのです。
綿密な品質計画を策定したら、いよいよ実行段階へ!と進みたいところですが、ここで油断は禁物です。なぜなら、品質とは決して静的なものではなく、事業を取り巻く状況やお客様のニーズの変化に合わせて、常に進化し続ける必要があるからです。そこで重要となるのが、【品質マネジメント】という考え方です。
Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)のPDCAサイクルを、粘り強く、そして着実に回し続けることによって、品質は常に磨き上げられ、最終的にはお客様の満足へと繋がります。この終わりなき改善こそが、「良い品質」を維持し、さらに高めていくための、揺るぎない原動力となるのです。
例えば、アイスクリーム屋さんの場合、材料の分量を確実に測る、作る手順をチェックする、定期的に味見をする、といったことを地道に徹底していくことが、良い品質を保ち、成長させる品質マネジメントそのものなのです。そして、この品質マネジメントを効果的に進めるためには、様々なツールを活用することが不可欠です。
皆さんは、QC7つ道具(※)という言葉をご存知でしょうか?
これは、品質管理の現場で培われた長年の経験と実績に基づき、品質データを客観的に分析し、隠れた問題点を特定するための、強力なツール群です。パレート図、特性要因図、ヒストグラムなど、これらのツールを適切に使いこなすことで、これまで曖昧だった品質が目に見える形となり、具体的な改善への道筋が明確になります。客観的なデータに基づいた評価こそが、主観的な判断を排し、「良い品質」を客観的に証明するための重要な鍵となります。
(※QC7つ道具:①パレート図、②ヒストグラム、③散布図、④特性要因図、⑤チェックシート、⑥グラフ、⑦管理図が含まれます)
どれほど完璧な品質計画を策定し、最新鋭のツールを導入したとしても、そのポテンシャルを最大限に引き出し、計画を成功へと導けるかどうかは、最終的には「人」の力にかかっています。
例えば、アイスクリーム屋さんの場合、怠けて手順通りに作らなかったり、材料におかしなところがあってもそのまま作業を続けてしまったり、お客様に美味しいアイスを食べてもらいたいという気持ちが無かったりすると、美味しいアイスを提供することは難しくなります。
形式的に標準化された手順をなぞるだけでは、真に価値のある製品やサービスは決して生まれません。手順の背後にある意図を深く理解し、変化する状況に柔軟に対応できる高度な判断力、そして何よりも「お客様に本当に喜んでいただけるものを創り上げたい」という、情熱と責任感に満ちた強い意志こそが、最も重要な要素なのです。
標準化された手順の遵守は、あくまでスタートラインです。そこから、チーム全体で品質管理を最重要視する文化を醸成し、一人ひとりが自身の役割を深く理解し、責任を全うする意識を持つことが不可欠です。そして、この意識をチーム全体に根付かせ、さらに高めていくためには、継続的な教育・育成への投資が欠かせません。
教育・育成の場では、最新のスキルを磨くだけでなく、品質に対する深い理解、問題の本質を見抜くための分析力、そして何よりも、メンバー同士が互いを尊重し、協力し合うチームワークを育むことが重要です。なぜなら、技術力、意識、そしてチームワークが三位一体となって初めて、真に高品質なものを生み出すことができるからです。つまり、高品質な製品やサービスの提供は、高度な技術力を持つ【人】、品質を追求する【意識】、そして強固な【チームワーク】によって支えられていると言えるのではないでしょうか。
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(注1)これまで私が執筆したプロジェクトマネジメントや品質マネジメント、上流工程(要件定義)におけるコラムも是非ご覧ください。
これからも皆さんにとって有益な情報をお届けできるよう尽力します。今後のコラムも是非楽しみにしてください。
デジタル人材育成ソリューション事業本部
プロマネ品質上流チーム所属
吉田 千鶴(よしだ ちづる)
COBOLやメインフレームの研修講師を経て、近年はアジャイル研修の講師やシステム開発のプロマネも経験しています。美味しいコーヒーを飲みながらまったりする時間が好きです。
(2025/10/02)