その「現行踏襲」、ちょっと待った!関係者全員で知っておくべき真実と調査の重要性

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皆さん、こんにちは!
富士通ラーニングメディア デジタル人材育成ソリューション事業本部の吉田です。

このコラムは、プロジェクトマネジメントや品質マネジメント、上流工程について執筆するシリーズの第10弾です。(前回までのコラムはこちら(注1)

システム担当の皆さん、「うちのシステム、そろそろ限界かな・・・」と感じている方は、いらっしゃいませんか?

日々の業務を支える大切なシステムも、年月とともに老朽化が進み、パフォーマンスの低下やセキュリティリスクの増大といった問題が表面化してきます。そこで頭を悩ませるのが、システムの再構築。数ある選択肢の中で、ひときわ魅力的に映るのが「現行踏襲」という言葉ではないでしょうか。

「現行踏襲」とは、新しいシステムに既存システムの業務をできる限りそのまま引き継ぎ、同じように動かすという考え方です。長年使い慣れた操作画面、作業手順、帳票デザイン・・・これらを大きく変えることなく、スムーズに移行できるイメージがありますよね。

例えるなら、スマホを最新機種に買い替える際に、基本的な操作方法やアプリの配置などが変わらず使えるようにしたいため、同じメーカーのスマホにする、という感覚に近いかもしれません。一見、リスクが少なく、コストも抑えられそうな「現行踏襲」。

しかし、ちょっと待ってください!!

もし、ガラケーから最新スマホへの移行でガラケーの操作性を無理に踏襲しようとしたらどうでしょう?

タッチ操作やアプリの利便性を活かせず、スマホ本来のメリットを享受できません。システム開発においても、同じように、古い技術や考え方に固執しすぎると、最新技術の恩恵を受けられず、将来的な成長を阻害してしまう可能性があるのです。

このように、安易に「現行踏襲で」と決めてしまうと、まるで甘い誘惑に隠された落とし穴のように、プロジェクトを予期せぬ困難に導き、結果的に時間もコストも大幅に超過してしまう・・・なんてことも珍しくありません。

システムを依頼する側から「現行踏襲で」と言われた時、システム担当者はリスクを減らせると安易に考えがちです。しかし、現行踏襲という言葉の裏には、隠れた課題が潜んでいるかもしれないという視点を忘れてはいけません。

では、なぜ現行踏襲という選択肢があるのでしょうか? その裏にはどんな落とし穴が潜んでいるのでしょうか? そして、現行踏襲を選ぶ際に、何に注意すればプロジェクトを成功に導けるのでしょうか?

今回のコラムでは、現行踏襲を選択する場合の注意点と、プロジェクトを成功させるためのポイントをわかりやすく解説していきます!

「現行踏襲」が選ばれる理由の多くは勘違い!?

突然、衝撃的な言い方になりますが、システム開発において、現行踏襲が選ばれる多くの理由には【誤解】がとても多いのです。以下で、現行踏襲が魅力的に見える理由を説明していますが、それは表面的な理解に過ぎないことを確認していきましょう。

「コスト削減」という勘違い:
誤解: 新規開発に比べて初期費用を抑えられ、既存のシステム資産(プログラム、データなど)を再利用できる。
現実: 設計書が古い、紛失しているなど、設計の不備が隠れていることが多く、調査・修正コストが発生する可能性がある。現行システムの詳細な調査によって、隠れたコストを事前に把握することが重要
「リスク軽減」という勘違い:
誤解: 新しいシステムでも動きが予測しやすい。要件定義や設計で問題が起こる可能性を減らせる。
現実: 同じ動作の保証はない。例えば、ミドルウェアの最新版では旧版機能が欠落している可能性もある。現行システムの構成要素と依存関係を詳細に調査し、移行時のリスクを洗い出す必要がある。
「短期間での移行」という勘違い:
誤解: 新規開発よりも早くシステムを移行できる。
現実: 老朽化・肥大化・複雑化・ブラックボックス化が進んでいる場合、移行作業は大幅に遅延する可能性がある。現行システムの構造と複雑さを詳細に調査し、移行に必要な期間を正確に見積もる必要がある。
「同じ使い方ができる」という勘違い:
誤解:操作性や画面デザインが大きく変わらないので、ユーザーの抵抗を減らせる。
現実:同じ動作の保証はない。例えば、ミドルウェアの最新版では旧版の機能が欠落している可能性もある。操作性も変わる可能性がある。現行システムの操作性と機能の詳細を調査し、変更による影響を事前に評価する必要がある。

このように、現行踏襲は多くの場合、表面的なメリットに目を奪われた【誤った判断】につながる可能性があります。予算やリソースが限られている場合、業務への影響を最小限に抑えたいという気持ちは理解できますが、安易に現行踏襲を選択するのではなく、まず「現行システム」を徹底的に調査し、現状を正しく把握することが何よりも重要なのです。

「現行踏襲」に潜む落とし穴

特に注意すべきは、長年運用されてきたレガシーシステムの存在です。レガシーシステムは技術的な老朽化、システムの肥大化・複雑化、ブラックボックス化といった問題を抱えていることが多く、既存のシステムを正確に把握することが非常に困難です。

当時の担当者はすでに退職し、ドキュメントは紛失、システムは複雑化の一途を辿り、まさにブラックボックス! いざ詳細を調べようとしても、仕様が不明確、技術が陳腐化していて、まるで古代遺跡の発掘作業さながらの困難さです。

このような状況で既存のシステムを正確に把握することを怠ると、要件定義の段階で重要な機能が抜け落ちたり、開発工程で想定外の問題が発生したりと、プロジェクトは迷走を始めることになります。現行システムのブラックボックス化は、プロジェクトを暗礁に乗り上げさせる危険性を秘めているのです。

現行踏襲プロジェクトを成功させる秘訣

現行踏襲プロジェクトを成功させるには、以下の点が重要です。

  • 徹底的な現行システムの分析
    お客様の業務部門へのヒアリングを重ね、隠れた仕様や運用を洗い出す。実際にシステムを操作してもらい、使い勝手や問題点を把握する。「何を変えるのか」「何を変えないのか」を明確にする。表面的な機能だけでなく、業務に根付いた暗黙知を掘り起こすことが重要です。地道な調査を重ねることが、成功への確実な一歩となります。
  • お客様との密なコミュニケーション
    プロジェクトのキーマンを巻き込み、意識のズレを早期に発見する。丁寧に説明を行う。お客様の要望を鵜呑みにせず、本当に必要な機能や実現可能な範囲を説明する。お客様の期待をコントロールする。お客様との信頼関係を築き、共通のゴールを目指すことが不可欠です。

現行踏襲プロジェクトを成功させるには、徹底的な現行システムの分析とお客様との緊密な連携が何よりも大切です。システムの表面的な機能だけでなく、業務部門への丁寧なヒアリングを通じて、隠れた仕様や運用上のノウハウを徹底的に洗い出すことが重要になります。そうすることで、改修範囲を明確にでき、不要な変更を避けることができます。

また、プロジェクトのキーパーソンを巻き込んだ密なコミュニケーションを通じて、「あれ?思っていたのと違う・・・」という認識のズレを早期に発見し、丁寧に解消していく必要があります。お客様の要望を鵜呑みにするのではなく、本当に必要な機能や実現可能な範囲を明確に説明し、お客様の期待値を適切にコントロールすることで、プロジェクトの方向性を正しく導くことが求められます。

つまり、地道な調査とお客様との継続的な対話こそが、現行踏襲プロジェクトを成功に導くための絶対に欠かせない要素と言えます。この二つの要素を両輪として、プロジェクトを推進していくことが重要です。

システムの再構築は、企業の未来を左右する重要な決断です。自社の状況をしっかりと見極め、最適な選択肢を選びましょう。そして、現行踏襲を選ぶのであれば、今回ご紹介したポイントを参考に、十分な計画と準備を行い、プロジェクトを成功へと導いてください。現行踏襲は、決して安易な選択肢ではありません。成功のためには、綿密な準備と覚悟が必要であることを忘れないでください。

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【集合】現行踏襲プロジェクトの勘所(UAR28L)

【ライブ】現行踏襲プロジェクトの勘所(ULF26R)

(注1)これまで私が執筆したプロジェクトマネジメントや品質マネジメント、上流工程(要件定義)におけるコラムも是非ご覧ください。

私のコラムを読んで下さる皆さんのお蔭で、第10弾まで書き続けることが出来ました。感謝申し上げます。
これからも皆さんにとって有益な情報をお届けできるよう尽力します。今後のコラムも是非楽しみにしてください。

執筆者紹介

デジタル人材育成ソリューション事業本部
プロマネ品質上流チーム所属
吉田千鶴(よしだ ちづる)

COBOLやメインフレームの研修講師を経て、近年はアジャイル研修の講師やシステム開発のプロマネも経験しています。美味しいコーヒーを飲みながらまったりする時間が好きです。

(2025/07/22)

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