みなさん、こんにちは!
富士通ラーニングメディアでアカウント営業を担当している千葉です。
このコラムには、3回目の登場となります。
私は以前、会社に通いながら、熊本大学大学院(修士課程)で学び、修士論文では「講師力」を取り上げました。
昨年、それをブラッシュアップしたものを、「講師力の定義・構造化の有用性の検証~研修事業会社の講師力向上への取組みを例として~」として、教育システム情報学会の全国大会で発表したところ、大会奨励賞を頂戴しました。
これは、一言で言うと、講師に求められる力(講師力)を定義し、より役立つよう、現場での評価、検証を行った研究です。
今回は、この研究テーマについてご紹介します。
自社内で講師や教育企画を担当される方々にもご参考になれば幸いです。
「講師力の定義」を研究テーマに設定したきっかけは、あるお客様から「講師の品質に関するクレーム」を連続していただいてしまったことでした。
クレームの原因は、講師のスキル・経験と、お客様のニーズとの不一致にあったため、当然のことですが、その後は、事前にお客様のニーズをより正確に把握するようにしました。
それと同時に、当社が定義している、講師に求められる力(講師力)にぬけやモレがないか、また、そもそもそれはお客様のニーズを満たすことのできるものなのか...などといったことを、根底から考えることにしました。
当社で講師として登壇するには、長年のノウハウの蓄積から構成された講師手引きを熟読の上、何度もリハーサルを行い、幹部社員のチェックをパスしなければならないシステムになっています。
その際には、当社で作成している「リハーサルチェックシート」を指標として利用しています。
それでもクレームが発生しているということは、まだ改善の余地があるのではないか?と思い、あらためて講師に求められる力を定義し、講師品質を起因とするトラブルを削減・軽減したいと考えました。
研修事業会社が「講師力」について研究発表をした例は、私が調べた範囲では過去に無く、その新規性と有用性が評価され、各方面から多くの反響を頂きました。
では、どのように講師力を定義し、より役立つよう評価、検証したのか、研究プロセスを簡単にご説明します。
プロセスは大きく3フェーズに分かれており、それぞれ以下のような取り組みをしました。
まず、現状どのように講師力が定義されているのかを、既に当社で利用している講師手引きやリハーサルチェックシートから整理しました。
次に、ここ2年間の当社研修アンケート約22万件の中から講師に関係する低評価な事例を抽出し問題点を明らかにしました。
また、
を比較対象として調査しました。
Iで調査・分析した各種講師指標と当社の講師指標を照合して、相似・相違を明らかにしました。
次に、現在発生している問題の解決に役立つと考えられる講師力要素の追加を行って、「講師力定義リスト」を開発しました。
開発した「講師力定義リスト」を、インストラクショナル・デザイン(教育が最適な効果をあげるための設計手法)の専門家、現場管理職、現場講師それぞれの観点から評価を頂き、改善を行いました。
また、「講師力定義リスト」の活用方法についても、現場の声を収集して検討しました。
このように、先行事例・先行研究との比較や、現場での評価なども踏まえ、最終的に3階層・16カテゴリ・55要素で構成される「講師力定義リスト」が完成しました。
例えば「演習手順説明を明瞭にできる」など、現実的にはほとんどの場合、講師が意識して対応できているものの、項目としては漏れていた部分などを追加し、妥当性、網羅性を確保しました。
下表は、専門家などの評価をもとに改善した「講師力定義リスト」から、一部を抜粋したものになります。
今回は、講師に最低限求められる講師力を定義しました。
今後は、ハイパフォーマーの育成をどうするかという課題や、新しい形式の研修(ファシリテーション型研修、PBL型研修、サテライト講習会、eラーニングとのハイブリッド教育など)についても、それぞれどのようなスキル・経験が講師に求められるのか、調査・研究したいと考えています。
また、研究の中では、このリストの活用方法も検討し、以下のような活用案を考えています。
今回の研究は「講師力定義リスト」という成果につながりましたが、それに加え、研究のプロセスを通じて、見えてきたものや得たものが非常に多くありました。
これらの成果は、今後当社が講習会サービスを、高品質でかつ継続的に提供し続ける上で、非常に重要な知見になり得ると考えています。
以上のような研究成果が評価され、教育・IT関連の研究・調査・情報交換を目的とした、国内最大級の団体である、教育システム情報学会の、第37回全国大会(2012年8月開催)にて、大会奨励賞を頂戴しました。
大会奨励賞とは、教育システム情報学と関連分野における学問の発展を奨励するため、その貢献が顕著である新進の研究者に贈呈される賞で、全国大会で発表された全公演の中から3%を目途に授与されます。
今回は私を含め、3名が受賞しました。
このような賞に私が選ばれたのは、自身の研究成果やプレゼンテーションが認められたという意味で大変光栄です。
これは、私だけの努力ではなく、熱心に指導頂いた熊本大学大学院教授システム学専攻の先生方や、研究の評価・改善に協力頂いた方々、営業業務のかたわら研究に取り組むことを支援してくれた職場の仲間(自社のことで恐縮ですが・・・)の支援と協力があってのことと強く感じており、この場を借りてあらためて御礼申し上げたいと思います。
今回は「講師力の定義・構造化の有用性の検証」の研究成果についてご紹介しましたが、大学院の通学中には「熊大通信」と題し、大学院で学んだ専門的な知識を当社コラムとしてご紹介しました。
また、卒業後は「チャレンジの連鎖から世界が広がる(社会人修士体験記)」というテーマで、主に私と同じ立場で頑張る20代~30代の会社員を対象に、通学や研究を通した気づきや、学びをどのように業務と結び付けたかを掲載しました。
よろしければ、ぜひそちらもご覧ください。
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(1) 森田晃子: "自主的な学習を促すID に基づく学習ポータルの設計-MR 教育者が学習する「場」を考える-」",熊本大学人文社会学部教授システム学専攻修士論文(2010)
(2) 松本尚浩: "インストラクターコンピテンシーの医療者教育への応用",医療職の能力開発JJHPD4月号p41-62(2011)
(3) 菊田美里: "企業内教育における対面型研修の形成的評価の質を高める研修観察支援ツールに関する研究",熊本大学人文社会学部教授システム学専攻修士論文(2011)
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(2013/04/04)