こんにちは!富士通ラーニングメディアの福山です。「これからのプロジェクトマネジメントとは?」というテーマでお話ししています。
前回は、「経営的な視点を持とう」というお話をしました。7回目となる今回は、その続きです。
※前回の記事はバックナンバーをお読みください。
プロジェクトマネージャのみなさんに、ぜひ、身に付けていただきたいのが、コーチングのスキルです。
コーチングとは、自分の周りに5人のメンバーがいる場合、それぞれの性格や能力、マインドなどにふさわしい方法で、相手を自律的に動かすスキルです。
従来、優秀だといわれてきたプロジェクトマネージャは、コーチングと対極的な、ティーチングというスタイルで部下を統率していました。
こちらは、「すべてにおいて、プロジェクトマネージャである自分が決める。メンバーは自分の言うとおりに動いてくれればよい。何か起こった場合は、全部自分が責任を取る!」というマネジメントスタイルです。
私事になりますが、システムエンジニアとして富士通に在籍中、さまざまなプロジェクト運営を数多く経験しました。
私にもプロジェクトマネージャの理想像がありましたが、自分が実践したほとんどのプロジェクトは、失敗であったと実感しています。
たとえば、当初の計画を守ることにこだわり過ぎて、計画の妥当性検証を怠った結果、終盤になって大幅な計画見直しを行う事態を招いたことがありました。
また、メンバーとのコミュニケーションを軽視したために、緊急事態での情報掌握が迅速に行えず、即時対応ができないこともありました。
いずれのケースも、お客様と母体組織に多大な迷惑をかけたことはいうまでもありません。
今振り返ってみると、このような失敗は初期のころが多かったように思います。
私も技術者ですので、失敗をするとものすごく悔しいです。
『二度と失敗しないぞ!失敗しないためにはどのようにすればよいのだろうか?』と、必死に考えたものです。
そこで導かれた結論がいわゆる「失敗から学んだ教訓」です。
失敗するたびに必死に考え、「失敗から学んだ教訓」を自分の中に少しずつ蓄積し、プロジェクト運営に活かすことで次につなげてきたのだと思います。
プロジェクトマネージャになったばかりのころは、「○○○をやるぞ、みんな、ついてこい!」という、ティーチングスタイルでマネジメントを行っていました。
責任感の表れと思っていましたが、自分のおごりだったのかもしれません。
たとえば50人のチームで動いていた場合、頭を使うのはマネージャである私だけ。
ほかの49人は指示に従うだけで、私はメンバーに頭を使わせていなかったのです。
コーチングに出合ってから、私のスタイルは以下のように変わりました。
私 「このプロジェクトについて、僕は、○○○な方法で進めようと思うのだけど、Aさんはどう思う?」
A 「僕は、あのお客様なら、△△△な方法のほうがよいと思いますよ」
私 「なるほど。それも一理あるねぇ。では、Bさんはどう考える?」
B 「私は、×××がよいと思います」
私 「どちらもよいね。では、AさんとBさんで△△△と×××の進め方の一番よい方法を考えてくれないかな。よろしくね」
このように、私が相手に意見を促し、一定の仕事を任せるような話し方に変えただけで、AさんもBさんも、自らアイデアを出し、工夫をするようになりました。
自分で発案したことを、自ら実行すると、「なんとか成功させたい」という動機と責任感が生まれ、自分の頭で考えるようになるのです。
このようにして、全員が自分の頭を使うことになれば、マネージャに言われるままに動くのではなく、自律的に業務にあたるチームができあがっていくというわけです。
私が、コーチングというスタイルに変えていくことをおすすめする理由は、2つあります。
1つは、昨今のプロジェクトは進行が速いこと。
進行が速いプロジェクトを、プロジェクトマネージャ1人の頭だけで処理しようとしたら、適切なタイミングで最適な判断はできません。
プロジェクトメンバー全員が頭を使っていくこと、すなわち、個々がスピードアップすることによって、チーム全体のスピードが加速するのです。
これは、コンピュータにたとえると、CPUの数が多いほうが、処理速度が上がるのと同じです。
もう1つの理由は、世代の違いです。
今後登場する新入社員は、携帯電話やインターネットを完全に使いこなしている、いわゆるデジタルネイティブ世代です。
紙の文化で育ち、後天的にパソコンや携帯電話を使い込んできたノンデジタルネイティブ世代の我々と、デジタル文化で育った世代である彼らとは、発想と価値観が大きく異なります。
また、彼らは、我々よりも、自分の考えを主張する傾向も見られるので、最初はやる気があっても、主張が通らないと、やる気を無くしてしまうこともあります。
結果的に、言われたことは完璧にやるけれど、言われないことは一切やらなくなってしまうかもしれません。
つまりモチベーションの持たせ方が非常に重要となるのです。
このようなデジタルネイティブ世代に対してティーチングは効果があるとはいえず、人を自律的に動かすことができるコーチングが有効になるのです。
マネジメントスタイルを、ティーチングからコーチングに変えると、自分の思い通りにいかないこともあり、最初は不安になるでしょう。
しかし、すべてを1人で考えるティーチングスタイルよりも、コーチングを習得したプロジェクトマネージャのほうが、ずっとスムーズにプロジェクトを運営できるようになるのです。
だからこそ、今、プロジェクトマネージャとして、現場でがんばっている方たちには、ぜひとも、コーチングのスキルを身に付けていただきたいのです。
■次回は最終回です。福山から、経営者のみなさんへあてたメッセージをお届けします。
■第1回「これからのプロジェクトマネジメントとは?(1)マネジメントを、経験知から形式知へ ~PMBOK® Guideについて考える~」
■第2回「これからのプロジェクトマネジメントとは?(2)プロジェクトを成功に導くために ~PMBOK® Guideについて考える~」
■第3回「これからのプロジェクトマネジメントとは?(3) PMBOK® GuideとKKDの融合が成功のコツ」
■第4回「これからのプロジェクトマネジメントとは?(4)KKDを短期間で身に付けるために」
■第5回「これからのプロジェクトマネジメントとは?(5)ビジネス環境の変化に対応するために」
■第6回「これからのプロジェクトマネジメントとは?(6)「モノづくりの匠」から「経営的な視点」へ」
■第8回「これからのプロジェクトマネジメントとは?(8) 企業の成長を担えるプロマネを育てよう」
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富士通ラーニングメディアでは、プロジェクトマネジメントのスキルを体系的に学べます。
ご自分のスキルアップに、スタッフのスキルアップに、ぜひ、ご活用ください。
(更新日 2019/04/11)