ジョブ・クラフティングとは?考え方から実際のやり方までキャリアコンサルタントが徹底解説!

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こんにちは。キャリアコンサルタントの藤田と申します。私は普段、企業や組織で働く人たちのキャリアを研修やカウンセリングを通じてサポートさせていただいています。

私が日頃キャリアサポートの現場でお会いする方たちから話を聴いて感じたことや、自身のこれまでの歩みを振り返って思うことなどを3回にわたり、お送りしています。

前回のコラムでは「キャリア自律」をテーマに、自分のキャリアのハンドルを自分で握ることについてお伝えしましたが、もしかすると「自分は今すぐキャリアを変えるつもりはないから、キャリア自律と言われても関係ないな」などと思われた方もいらっしゃるかもしれません。
そこで今回は、異動や転職などのキャリアチェンジをしなくても、今の仕事の中でキャリア自律に取り組める「ジョブ・クラフティング」という考え方をご紹介します。

目次
ジョブ・クラフティングとは何か
 -ジョブ・クラフティングとは
 -職務を決めているのは誰か
 -どんな時に役立つか
 -ジョブ・クラフティングで働く喜びを取り戻す
ジョブ・クラフティングのやり方
 -職務の現状把握
 -自己のWILLとCANを知る
 -WILL・CANと職務の組み合わせを考える
 -職務を再定義する
 -上司と認識をすり合わせる
 -ジョブ・クラフティングは万能ではない

■ジョブ・クラフティングとは何か

ジョブ・クラフティングとは

“ジョブ”は”仕事”、”クラフティング”は”技術や技巧を使って手作業で作ること”を意味する英語です。

“ジョブ・クラフティング”とは、”仕事を手作りすること”。

会社や上司の指示ではなく自分自身で職務を再定義してみることで、自分らしさを取り入れたり、新しい視点で仕事をとらえたりして有意義な変化をもたらそう、という考え方であり、手法です。

職務を決めているのは誰か

雇われて働いている私たちにとって、働く機会は会社や組織から提供されているものです。
そのため、職務の範囲ややり方なども会社や上司などから一方的に決められた、固定的なものだと捉えてしまいがちです。

ですが多くの場合、大まかにはやるべきことが決められてはいるものの、具体的に何をするかについては従業員の裁量に任されているところがあるでしょう。

たとえば、目標管理制度がある会社では、期初に「今期は何に取り組むか」という目標設定を上司と部下が面談してすり合わせます。
そういった職場では、従業員が自分の意思を職務に反映させるチャンスが大いにあるといえそうです。

どんな時に役立つか

私がお薦めしたい、ジョブ・クラフティングを取り入れると効果的な状況は、2つあります。

まず、異動して少し経った頃や、新しい業務を担当し始めて間もない頃です。
新しい職務の概要がわかってきたら、ジョブ・クラフティングの考え方で仕事を捉え直し、自分なりにカスタマイズすることで、強みを発揮したり情熱を傾けたりできるようになるでしょう。

もう一つの状況は、今の仕事に行き詰まりや”やらされ感”を感じている時です。
人生の時間は無限ではないのに”やらされ感”で仕事をしているとしたら、もったいないと思うのです。

ジョブ・クラフティングで働く喜びを取り戻す

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自分はいったい何のために働いているのだろう、と考えたことがありますか。
お金のため? それだけでしょうか・・・!?

私がキャリアコンサルティングをする際には、「お金だけのために働いている」とおっしゃる方へはこのようなご質問をします。

「もし宝くじで10億円が当たったら、働くことを完全にやめますか?」
(読者のみなさんも、ちょっと考えてみてください。)

大抵の方は、しばらく考えたあとで、「たとえお金を稼ぐ必要がなくなっても仕事は続けたい」「働くことを通じて社会と繋がっていたい」などとおっしゃいます。
誰しも、お金のため”だけ”に働いているわけではないだろうと、私は思います。

何かを自分の手でやり遂げた時の手応え、心地よさ。
仕事を通じて知り合う人との繋がり、仲間の存在。
誰かのため、何かのために役に立てたかなと思えた時の嬉しさ。
仕事を通じて新しいことを学び、成長しているという実感。
部下や後輩を育てる喜び。

そういったことを味わえるから、大変なことがあっても頑張って働こう、働きたいと思えるのではないでしょうか。
お金だけではない、働くことで得られる価値を、なるべくたくさん味わえたらいいなと思います。

もし今、”やらされ感”や”諦めの境地”で仕事をしていてそういった喜びが味わえていない方には、次にご紹介するジョブ・クラフティングのワークをやってみることをお薦めします。

自分らしさを発揮できるように仕事を”手作り”することは、仕事の喜びやワクワク感を自分の手に取り戻す作業になると思います。

■ジョブ・クラフティングのやり方

職務の現状把握

まず、現在の職務の現状把握をしていきます。

職務は大抵、複数のパーツでできています。

メイン業務の他にサブ業務をいくつか担当している場合や、一つの大きな仕事の中に複数の作業工程がある場合もあるでしょう。

自分自身の職務に加えて他の人のサポートや後輩・部下のマネジメントを担当している場合もあるかと思います。

そのような職務のパーツをふせんに書き出します。

大中小のふせんを使い分けて、メインの業務はサイズ「大」のふせん、サブの業務はサイズ「中」のふせん、たまにしかやらない作業はサイズ「小」のふせん、などと仕事に投入する時間やエネルギーの量を表せると、見た目にもわかりやすいです。

自己のWILLとCANを知る

次に、自分自身の現状把握に移ります。
先ほどとは違う色のふせんをご用意ください。

前回のコラムで、自分を知るには2つの側面、WILLとCANがあるとお伝えしました。
自己のWILLとは、やりたいこと・興味関心・大切にしたい価値観などです。
自分はどんなことになら情熱を傾けるのか。
誰かに頼まれずとも思わず懸命に取り組んでしまうことは何か。
我を忘れて夢中でやるのはどんなことか。
過去の経験や最近の印象的な仕事などを思い出しながら、書き出してみてください。

自己のCANとは、できること・得意なこと・スキルなどです。今の仕事で活かせているかいないかに関わらず、なるべくたくさん書き出してみましょう。

WILL・CANと職務の組み合わせを考える

WILL・CANのふせんを手に取って、職務のふせんとの新たな組み合わせを検討していきます。
創意工夫をおこなう”クラフティング”な作業ですので、発想を柔軟にして、意外な組み合わせの中にも可能性を探してみましょう。

現在の職務の中で自分らしいCANが発揮されていることを思い出せたでしょうか。

あるいは、メイン業務では活かされていなかったものの、サブ業務で活かせそうなWILLが見つかったでしょうか。

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職務を再定義する

自己のWILL・CANと職務との組み合わせを活かせるように、以下の3つの観点で職務を再定義していきます。

1.業務範囲や業務のバランス
2.人間関係
3.職務についての認識

1~3はどの順序で取り組んでも構いません。

ここで、システムエンジニアのAさんがジョブ・クラフティングをおこなった例をご紹介します

Aさんは人材アセスメントを受検したのがきっかけで、自分には「人に教えたり支援したりしたい」というWILLがあることをはっきりと自覚しました。
そして現在の職務について振り返ってみると、近々、他部署から異動してくるSE経験の浅いメンバーに仕事を引き継ぐことになっているのを思い出しました。

そこでまず、3.職務についての認識 をこのように考え直してみました。

「自分の仕事は単にシステムを構築してお客様に提供することだと思っていたけれど、自分のWILLを加味すると、仕事仲間の”育成”にも一役買うことができそうだな。」

次に、異動してくる新メンバーの育成に関わるという認識を持ったことで、新メンバーとの 2.人間関係 についても考え直してみたくなりました。

「新しいメンバーには滞りなく業務を引き継いでもらうことだけを考えていたけれど、”育成”という観点で考えると、もっとサポートできることがありそうだな。
SEの先輩として頼りにしてもらえるように、相談に乗りやすい関係作りを心がけてみよう。」

すると、1.業務範囲やバランス も見直すことになりました。

「”育成”として取り組むとなると、単に業務をレクチャーするだけでなく、サポートのための定期的な打ち合わせもおこなった方がよさそうだな。」

Aさんはサイズ「小」のふせんに書いていた"新メンバーへの業務引継ぎ"を、サイズ「中」のふせんで"新メンバーの育成"と書き改めました。

上司と認識をすり合わせる

その後、Aさんは、新しいメンバーとの関係性のあり方や業務時間の使い方について上司に相談しました。

上司は、Aさんが単なる”業務引継”ではなく”新メンバーの育成”として取り組もうと考えていることについて、大いに賛同してくれました。

そして、チームの他のメンバーにもこのことを伝え、Aさんを中心に、チーム一体となって育成をサポートすることを約束してくれたそうです。

自分なりの創意工夫で仕事を手作りすることは、一歩間違えれば自分本位なスタンドプレーとも取られかねません。
職場はチームプレーの場ですので、個人が突出して組織全体の目指す方向と異なることを勝手にやるのはNGです。

そこで、上司とよく話し合い、認識のすり合わせをしておくことがジョブ・クラフティングの成功の鍵となります。

ジョブ・クラフティングは、おこなった本人のモチベーションが上がりますが、それだけでなくチームに利をもたらすことも多いのです。

なぜなら、現代のビジネスは非常に複雑で変化が早いため、現場の裁量で、必要と思われることを率先して見つけて実践することが良しとされているからです。

そして、従来のやり方にとらわれず、新しいことにチャレンジしていくことも求められています。

新しいことにチャレンジするためには豊かな発想や仕事へのモチベーションが必要なので、ジョブ・クラフティングをすることで一人ひとりが自分らしさを発揮することと合っているのです。

ジョブ・クラフティング成功の秘訣は、個人と組織がお互いにWin-Winになるような目的を見いだし、上司や組織と合意することです。
協力者が増えれば活動がしやすくなりますし、自分自身のモチベーションや情熱も高まることと思います。

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ジョブ・クラフティングは万能ではない

ジョブ・クラフティングは万能ではないということも最後にお伝えしておきたいと思います。

仕事をしていく上では個人の意思や努力だけではどうにもならないこともあるため、ジョブ・クラフティングで全ての問題が解決するわけではありません。

ジョブ・クラフティングをやっても”やりがい”がまったく見出せそうにないとしたら、自分と今の職務にズレが生じている可能性について考えてみてもよいかもしれません

次回のコラムでまたお会いしましょう。

執筆者紹介

藤田 るり子(ふじた るりこ)
ナレッジサービス事業本部 人材アセスメント/キャリア開発チーム

国家資格キャリアコンサルタント
2級キャリアコンサルティング技能士
産業カウンセラー
企業や組織で働く人たちのキャリアを研修やカウンセリングを通じてサポートしています。
趣味:太極拳、声楽、俳句、読書

(2023/09/21)

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