キャリア自律とは?メリットから始め方までキャリアコンサルタントが徹底解説

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こんにちは。キャリアコンサルタントの藤田と申します。私は普段、企業や組織で働く人たちのキャリアを研修やカウンセリングを通じてサポートさせていただいています。

これから3回にわたり、私が日頃キャリアサポートの現場でお会いする方たちから話を聴いて感じたことや、自身のこれまでの歩みを振り返って思うことなどをお送りします。

今回は「キャリア自律」がとなえられるようになってきた時代背景や、私たちがキャリア自律とどう向き合い、何から始めればよいのか、その具体的な方法などについてお伝えいたします。


目次
キャリア自律の時代
 - キャリア自律をうながす企業が増えてきた
 - キャリア自律にはほど遠かった20年前
 - 企業がキャリア自律を求める理由
 - 日本だけ? 企業が“自律”をうながす状況
 - 個人にとってのメリット
キャリア自律の具体的な方法
 - 何から始めればいいのか
 - 自分を知る2つの方法
 - 対話を通じて自分を知る
 - 人材アセスメントを活用して自分を知る
 - 自分自身のWILLを大切に

■キャリア自律の時代

キャリア自律をうながす企業が増えてきた

最近、お仕事でご一緒する民間企業にお勤めの方から、
「会社から“自分のキャリアは自分で考えなさい”と言われるようになって、戸惑っています」
とか
「“キャリア自律しましょう”“キャリアオーナーシップを発揮しましょう”と言われるけれど、何から手をつけたらいいですか?」
といったお声をよく聞きます。

キャリア自律とは、一言でいうと、自分自身のキャリア形成に主体的に取り組むことです。
(逆にたとえば“会社や上司に言われたことをちゃんとやっていれば自然とキャリア形成できるだろう”といった考えなどが、キャリア自律とは異なります。)

  • 自分の価値観を自覚する。自分のキャリアのハンドルを自分で握り、行き先を見定めて進んでいこうという意識を持つ。
  • 環境変化にアンテナを立てる。新たな学びを続ける。人脈を広げる。主体的に行動する。

そのようなあり方が、働く一人ひとりに求められる時代となってきました。

キャリア自律にはほど遠かった20年前

個人的な体験で恐縮ですが、20年以上前の就職活動の面接でのことです。
「君は当社に来て何をやりたいの?」と聞かれて、
「何でもやらせていただきます!」と元気よく答えた記憶があります。

やりたいことを明確に言わない(言えない)就活生は、今なら不合格だろうと思いますが、当時はまだキャリア自律という言葉も日本では使われていませんでした。

“会社(上司)から指示された仕事を、好き嫌いなく「はい」と引き受ける”ことが良いとされた時代を憶えていますので、
「今さら“キャリア自律”と言われても、困る」
「以前はやりたいことを言うのはワガママだと取られて、許されなかったじゃないか」
とおっしゃる方がいても、無理もないことだと思います。

企業がキャリア自律を求める理由

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企業が社員にキャリア自律をうながすようになったのは、経営環境が急激に変化する時代となったことが大きな要因です。
今と同じビジネスがこの先も続くとは限らないから、今と同じ働き口を提供し続けられる保障がない。
企業が力を入れるビジネスを、下火になる分野から成長分野へとシフトするために、(新たな人材を採用するだけでなく)既存の社員に新たなビジネスの担い手になってもらいたい。

自発的に学び続ける人材なら、成長分野に適応して活躍し続けられるだろう、という期待。
加えて、自ら考え行動する人材であれば、変化が激しく必勝パターンがない今の時代に、会社や上司からの指示に頼らずとも自ら取り組むべきことを見つけて推進してくれるだろう、といった期待もこめられているようです。

日本だけ? 企業が“自律”をうながす状況

ところで、「企業が社員にキャリア自律を求めている」――この言葉の意味をよく考えてみると、おかしな点に気がつきませんか。
“自律”というのは本来、他人から言われてするものではないはずです。自律しようと自ら思うことこそが自律の第一歩だ、と言えるかもしれません。

企業が主導して従業員に「キャリア自律しましょう」とうながすのは日本特有で、諸外国ではあまり見られない傾向だそうです。
キャリア自律には本人にとってメリットがあるからこそ、諸外国では誰に言われずとも個人が自分で目指しているのでしょう。

個人にとってのメリット

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では、個人がキャリア自律というあり方を目指すメリットとは、どのようなことでしょうか。
大きく分けると2つの側面があります。

  • 環境適応――私たちを取り巻く環境(社会情勢・技術革新・市場動向・企業や職務の状況)の変化にいち早く気づき、対処できるようになる。
  • 自己実現――自分自身がどんな人間なのか、どんな価値観を大切にしどう生きたいのかに自ら気づき、実現に向けた行動ができるようになる。

環境適応。
キャリア自律というあり方は、変化の激しいこの時代を個人が生き延びるための生存戦略だといえます。
変化に流され振り回されることを恐れて必要以上に不安になるのであれば、むしろ自分から変化を作り出したり、変化に飛び込んだりする方がかえって楽になることがあります。
未経験のことにチャレンジする時や、新しいことを学ぶ時、子どもの頃に返ったような遊び心や冒険心がわいてくることがありますよね。不安や恐怖とは真逆の、ワクワクする気持ちにスイッチを入れてしまうのがコツです。

自己実現。
自分らしいキャリアを歩み、自分自身にとって意味があると思える人生を送るためには“自律”はけっして悪いことではないと私は思います。自分のキャリアのハンドルを自分で握れば、自分のやりたいことに近づくチャンスが増えるからです。

■キャリア自律の具体的な方法

何から始めればいいのか

個人がキャリア自律をめざすメリットは2つ(環境適応と自己実現)あると申し上げました。
環境適応と自己実現、どちらから取り組むべきか?
私はズバリ、自己実現の面から先に取り組む方がうまくいくと思います。
私たち(とりわけ私のような古い人間)は自己実現を後回しにしてきたと思うからです。

これも私個人の体験ですが、30代手前のある日、上司から
「君も一通りいろんなことができるようになったね。ところで、君自身は何がやりたいの?」
と問われて絶句した記憶があります。
“上司の指示を「はい」と引き受ける“ことばかりをやってきて“自分が何をやりたいのか”を考えてこなかったことを思い知らされました。

ちなみに、キャリア自律のための環境適応においては“上司の指示を「はい」と引き受ける”のとは違ったアプローチが必要ですが、それについてはまた別の機会にお伝えできればと思います。

自分を知る2つの方法

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自己実現とは“自分自身がどんな人間なのか、どんな価値観を大切にしどう生きたいのかに自ら気づき、実現に向けた行動ができるようになる”ことだと先ほど申し上げました。しかしここで大きな壁が立ちはだかります。
“自分で自分を知る”って難しい・・・!

自分では自分のことをなかなか客観的に見られないし、自分の特徴を言語化するのは難しいですよね。自分のことは、うぬぼれて美化してしまうことがあるかもしれない――と過剰に心配しすぎるあまり、謙遜しすぎてしまうこともあります(私の印象だと、うぬぼれすぎる人より謙遜しすぎる人の方が多いです)。

私は自分自身を客観的に捉えて言語化するために、2つのやり方をおすすめしています。

  • 対話――他者と“壁打ち”し、他者を“鏡”にすることで、自分を知る。
  • 人材アセスメント――人材の特性を客観的に計測できるツールを活用する。

対話を通じて自分を知る

自分一人でもんもんと考えている時には考えが浮かばないのに、誰かに聴いてもらえていると不思議とすんなり言葉が出てくる、という体験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。私はそのような場を“壁打ち”と呼んでいます。“壁打ち”の場は意識的に作ることができます。

カウンセリングでは、カウンセラーが聴き役に徹することで、相談者は安心して内省を深めていくことができます。最近は1on1などの場で上司が聴き役になってくれることもあるかと思います。

キャリアデザイン研修(ワークショップ)は、参加者同士が話し手/聴き手の役割を交代して、自分自身の経験や大切にしたい価値観などを語り合える場に設計されています。
お互いの話を聴き合うことで
「他の人と比べてみると、自分って意外と特徴があるのだな」
とか
「こういうことで悩んでいるのは私だけじゃなかったのか」
などと気づくことができ、お互いがお互いの“鏡”になるのも参加者同士の対話のいいところだと思います。

人材アセスメントを活用して自分を知る

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人材アセスメントというのは、質問項目に答える形で検査ができるツールのことです。
入社試験などで経験する適性検査をはじめさまざまなアセスメントがあり、スキルや資質を測ることができます。

アセスメントがよいのは、うぬぼれや謙遜がはたらかず、客観的に教えてもらえるところです。

「人に言えるほどの特徴はない」
「本当はこんなことがやりたいけれど自信がない」
などと思ってしまいがちな“控え目さん”。

アセスメントは客観的に
「あなたにはこのような特徴があります」
「あなたはこのようなことを大切にしたいでしょう」
などと示してくれるので、素直に受け取りやすいと思います。

アセスメントがよいもう一つの理由は“共通言語”にできるところです。アセスメントが、自分を知る際のハードルとなる“言語化“を手伝ってくれることで、自分の特徴を他者に伝えやすくなると思います。

私個人もかつて「自分自身が何をやりたいのかわからない」というところから始まって、アセスメントの助けを借りながらやりたいことを言語化できたという経験があるので、みなさんにもおすすめしています。

自分自身のWILLを大切に

最後にお伝えしたいことがあります。
自分を知るためには、自分についての2つの側面、CAN(できること・得意なこと・スキル)とWILL(やりたいこと・興味関心・大切にしたい価値観)を分けて考えるのがポイントです。

私たちは日頃、CANについて考えることには比較的慣れています。学校の勉強や仕事で求められてきたからです。
ですので、キャリアについて考える時には、WILLを大切にすることをおすすめします

“好きこそものの上手なれ”という言葉があります。やりたいことをやる時には“ワクワク”スイッチが入りますよね。興味があれば、情報も自然とたくさん吸収できるし、勉強も苦にならない。学校で強要されない趣味の習い事は楽しかったりします。
WILLを大切にして“ワクワク”スイッチが入ると、結果としてCANも無理なく高めていきやすいのです。

次回のコラムでまたお会いしましょう。

執筆者紹介

藤田 るり子(ふじた るりこ)
ナレッジサービス事業本部 人材アセスメント/キャリア開発チーム

国家資格キャリアコンサルタント
2級キャリアコンサルティング技能士
産業カウンセラー
企業や組織で働く人たちのキャリアを研修やカウンセリングを通じてサポートしています。
趣味:太極拳、声楽、俳句、読書

(2023/07/06)

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