~ 現場での飽くなき挑戦を徹底ディスカッション ~ニューノーマル世代の成長を促す新入社員研修

  • Others
  • 階層別(新人・若手)

2020年。多くの企業では、これまで実施したことのない新人研修に取り組む必要があった。富士通ラーニングメディアの調査によると、同社顧客の85%が、新人研修を通常の集合型からオンライン型に切り替えたという。「すべてが手探りでした」と語るのは、三井住友トラスト・システム&サービスで人事総務部主任を務める色部久仁子氏と、JR東日本情報システム JEIS・ICT研修センター所長の吉村啓洋氏だ。

「ニューノーマル世代の成長を促す新入社員研修」と題したセッションでは、両社が2020年に実施した新入社員研修の取組みを紹介するとともに、今後の新人研修の在り方についてディスカッションをした。

20210319_01.jpg

三井住友トラスト・システム&サービス 人事総務部主任の色部久仁子氏(左)と
JR東日本情報システム JEIS・ICT研修センター所長 吉村啓洋氏(右)

きめ細かなフォローで新入社員の孤独感を払拭する

 冒頭、富士通ラーニングメディアの担当者が、2020年における両社の新人研修概要を紹介した。JR東日本情報システムは57名の受講者が約60日間、三井住友トラスト・システム&サービスは31名の受講者が約85日間の研修を受けた。研修内容は両社ともプログラミング研修を基礎に、システム基盤やWebアプリケーション開発技術などを学び、最後の演習ではシステム開発(構築)を実践的に学ぶというものだ。両社はこうした研修のほとんどを、オンラインで実施した。



20210319_02.png

三井住友トラスト・システム&サービスの研修スケジュール(概略)

 両社は2019年に内定を出しており、入社前、内定者同士がリアルに対面する機会を設けることができた。とはいえ、オンライン研修を開始するにあたっては、さまざまな観点から注意を払ったという。色部氏は最も注意したこととして、「これまでの成功体験にとらわれず、チームビルディングを第一に考えたこと」を挙げる。

 オンライン研修の弱点は、実際に対面していないので、各受講者の様子がつかみにくいことである。そのため、精神的に落ち込んでしまっている受講者へのフォローがどうしても遅れがちになってしまう。吉村氏は「オンラインの自己学習は一人なので、新入社員は心細い。ですから、一人一人に対してきめ細かなサポートをするように心がけました」と語る。

 具体的には新人全員の日報には必ず目を通し、すべての日報に対して翌日昼までにコメントを書き込むようにした。その内容は、研修に関するものだけでなく、趣味の話なども積極的に盛り込むようにしたという。

 「たとえば、今日やったことを一行しか書かない研修生に対しては、『それをやってどう思ったか』『やる前とやった後で何か発見はあったか』といった質問コメントを返し、コミュニケーションを図りました。さらに、何度促しても一行しか書かない研修生には電話をかけて雑談をし、状況を把握するようにしました」(吉村氏)

 こうした取り組みによって、研修生からは「一時期内容が難しくて行き詰まったりしたこともあったが、コメントをもらってやる気を維持することができた」という反応も返ってくるようになったという。

誰が聞いても理解できるように伝えること

 実際にオンライン研修を実施した両氏は、「開始前は研修スケジュールの遅れを心配しましたが、結果的にそれは杞憂でした」と語る。オンライン研修成功の“秘訣”として吉村氏は、「目標設定を明確にすること」を挙げる。

 「会社員として仕事をするうえで重要なのは、自分で考えて行動していくこと。そして、(同僚や他部署などとの)横のつながりを大切にしていくことです。研修の目標はこの2つをしっかり理解し、今後の指針としてもらうためであることを繰り返し伝えました」(吉村氏)

 一方、色部氏は「オンラインでのコミュニケーションは、物事を正確に伝えようという意識が必要です」と説明する。

 「対面での研修の場合、受講者同士が会話をする際、『あれが』『これが』『ここは』という省略語を使って説明しても理解してもらえます。しかし、オンラインでこうした曖昧なことばを使うと、認識に齟齬が生じてしまう。ですから、講師やスタッフ、そして受講者には、『誰が聞いても理解できるような明確なことばで説明する』ように徹底してもらいました」(色部氏)

 三井住友トラスト・システム&サービスでは研修後半に実践プロジェクトとして、19日間のWebシステム構築演習を実施している。色部氏によると、2020年の研修生が作成したWebシステムは、経営層や現場の社員からも「(これまでの)集合研修生が作成したWebシステムと比較し、勝るとも劣らない」と、高評価だったという。その要因について色部氏は、「研修に携わったすべての人が、ミスコミュニケーションを起こさないように心がけたこと」だと分析する。

ニューノーマル時代の研修は「ハイブリッド型」が主流に?

 2021年度の研修については同氏とも「オンラインと集合のハイブリットで研修を行う予定です」と口を揃える。

 JR東日本情報システムでは2021年の新人研修に、2020年度の新入社員を「サポートスタッフ」として参加させる計画だという。オンライン研修を受けた者ならではの視点や気づきがあるとの考えからだ。また、内定者には自己紹介のWebサイトを作成してもらい、内定者どうしのオンライン・ミーティングなども積極的に実施する計画だ。

 色部氏も、内定期間中のオンライン懇親会の実施により、入社前に内定者どうしが早く打ち解けられるような環境を作っていきたいと話す。

 「オンラインを活用した企画により、内定者どうしの相互理解を深め、実際に会ったときに『はじめまして』ではなく、『久しぶり』と言える関係を構築できるように支援していきたいと考えています」(色部氏)

 コロナ禍で始まったオンライン研修は、研修コンテンツを提供する側も、受ける側も最適な方法を手探りしている状態だ。日本で新型コロナウイルスのワクチン接種が本格的に始まるのは、2021年下半期だと言われている。2021年の集合研修にも、何らかの制限があるのは間違いない。

 ニューノーマル時代の研修は、2020年のオンライン研修で得た気づきをうまく反映していくことが、成功のポイントとなりそうだ。

20210319_03.png

オンライン研修システムのイメージ

登壇者

株式会社JR東日本情報システム
JEIS・ICT研修センター 所長
吉村 啓洋氏

三井住友トラスト・システム&サービス株式会社
人事総務部 主任
色部 久仁子氏

(2021/03/19)