階層別研修のあり方・考え方★研修効果を高める運営のコツ

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みなさん、こんにちは!富士通ラーニングメディアの佐藤です。ビジネス・ヒューマンスキル分野の講師を担当しています。

今月は、当社が考える「階層別研修のあり方・考え方」について、私がこれまで携わった階層別研修の事例なども踏まえながら、4回にわたりお届けしてきました(毎週木曜日掲載)。

最終回となる今回は「階層別研修の運営・運用事例」をご紹介します。

さて前回は、階層別研修のコンセプト作りとプログラムの設計方法についての考え方を、当社の事例をもとにお伝えしました。
しかしこの考え方をもとに策定した研修も、運営・運用次第で効果に差が出ます。
自社の現状に合わせて、当日の研修運営や研修前後の運用での工夫が必要になります。

<研修は、実施前から始まっている>

研修実施前には、企画側から、上司および受講者に対する動機づけが欠かせません
特に上司に対しては、研修のコンセプトやプログラムの内容を詳細に説明し、受講の必要性を認識してもらいます。

また受講者に対しては、研修概要を説明し、受講目的を認識してもらいます。
事前課題を付与してもよいでしょう。

受講者に対する「動機づけ」とは、研修受講に際してのモチベーションアップだけではありません。
研修がスムーズにスタートできるための意識醸成も含まれます。
つまり、新たな階層における役割や、上司(または組織として)の期待をしっかり認識したうえで受講に臨むように促すのです。
研修を効果的なものにするためには、受講者全員が同じスタートラインに立つことがポイントです。

あるお客様では、登用時に執筆した論文を読み返し、自らの貢献価値を整理するという事前課題を行っています。
これにより、論文の書きっぱなしを防ぐだけでなく、昇格時の初心に戻って研修をスタートさせることができます。

上司から役割や期待を伝えることは、本来は研修とは無関係に行われるべきです。
しかし、実際にはまったく行われていないか、行っていたとしても上司からの一方的な伝達で、十分とはいえないケースが多いようです。
企画側としても、今まで行ってこなかったことを急に『やってください』と言っても、運用が難しいようです。

そこで、階層別研修を1つのきっかけとして、コミュニケーションの場を作る仕掛けを用意しておくことも1つの方法です。
その方法は「上司から部下への手紙」です。
研修前に、上司が部下の役割と期待を手紙にしたためます。
ここではあえて手紙を書いたことを部下には伝えません。
プログラムの中で講師から受講者へ手渡し、手紙の内容から自分の役割と期待を認識させます。

そして研修後に、受講者が上司に受講報告を行い、双方の認識を刷り合わせます。
このような仕掛けにより必然的にコミュニケーションの場を持てるようにするわけです。

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<運営の際に留意したい3つのポイント>

プログラムの内容にもよりますが、ディスカッションを中心とする場合には、特に次の3点に留意する必要があります。

1)ファシリテーターの存在

ディスカッションは受講者が主体となって進行しますが、受講者に任せっぱなしにすると、研修の目的を見失うことになりかねません。
たとえば、「リーダーとしての価値とは何か」というテーマでのディスカッションを行った場合、受講者間でそもそもの価値認識が異なり、議論が発散して終了することが起こりえます。
議論をきれいにまとめる必要はありませんが、ファシリテーターが研修目的を見据えて方向性を示したり、「議論が停滞している」、また「表面的な意見しか出ていない」場合にはさまざまな呼び水を与えたりして、議論の質を高めていきます。
社内で研修を実施する場合、ファシリテーターは受講者と同じ階層にいる先輩で、上位階層を目指している人がよいでしょう。

2)議論の「見える化」

ディスカッションで挙がった個人の意見は、本人だけでなく、周囲のメンバーにとっても重要な気づきとなりうるものです。
そこで、各自の発言はすべて 「見える化」しておくようにします。
一見、あまり重要ではないと思われる意見も、ディスカッションを深めていく中で、実は重要であったということもあります。
ホワイトボードやカードを活用し、終日、目が届くところに掲示しておきます
研修終了時の振り返りの際も活用でき、また企画側としては、受講者のレベルを確認するための参考になります。

3)本音で語り合う環境作り

ディスカッションの最中、事務局(人事部または人材育成部門)が受講者の様子をグループ単位で見回ることはよくあることです。
しかし、ファシリテーターではない限り、議論に口を挟むことは避けるべきです。
なぜなら、これまで受講者同士で積み上げてきた雰囲気を壊してしまう恐れがあるからです。
また、研修実施中の上司や経営層の途中入室も避けるべきです。ディスカッションは本音で行うことを前提とします。
上司や経営層が見守る状況では、受講者は本音が言えず、萎縮してしまう恐れもあるからです。

ディスカッション以外のプログラムで、研修終了直前に1人ずつ「行動宣言」をし、VTRに記録することを行っているお客様がいらっしゃいます。
受講者の取り組みをより真剣なものにするための工夫として、一定の効果があるようです。

<効果が続く研修にするために>

階層別研修においては、目的別の研修以上に実施後の運用が重要となります。
なぜなら、役割や期待に応えるためのアクションや自分自身の能力開発が、中長期的に、そして広範囲に及ぶためです。
研修実施後にまず行うべきことは、受講者とその上司とで提供価値と能力開発の方向性を共有することです。
前項目でまとめた3つのポイントのとおり、受講報告とあわせて、コミュニケーションの場を持つとよいでしょう。
これは、企画側が受講修了の要件として、義務化しておくべきです。

研修実施後の運用は、原則として現場の育成方針に合わせて現場で行います。
しかし、日々の業務に忙殺されて、育成が滞るケースも見られます。
そこで、企画側としては一定時期に「リマインドメールを送る」、「アンケートを実施する」などの地道な支援を行うことが必要です。
あるお客様では、社内の目標管理制度を運用するうえで、研修中に受講者が記載した「能力開発計画書」を、必須書類の1つとされています。
研修と制度をリンクさせることで、研修の形骸化を防いでいます。
また、前項目の最後にご紹介した、行動宣言をVTRに記録したお客様では、全社サーバ上で行動宣言を公開し、受講者が実践に移さざるを得ない環境を作っています。

階層別研修の運用・運営は、組織の風土や状況が異なるため、「こうすれば効果が高まる」という正解はありませんが、ちょっとした工夫で研修の価値が高まるものです。

さて今月は、「階層別研修のあり方・考え方」をテーマに、4回にわたりお届けしてきました。いかがでしたか。
みなさんの組織における階層別研修が、自社の階層としてふさわしい人材を育成する場となり、新たな価値を創出できるきっかけにしていただけますと幸いです。

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(2012/09/27)