従業員の力を最大限に引き出すために必要なものは!?~世界最大級人材開発会議ATDから見えた人材開発の最新トレンド(1)~

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みなさん、こんにちは。
富士通ラーニングメディアのグローバル研修の企画・実施~運営を担当している石橋と、国内研修の企画・開発・実施を担当している塙です。

今年もATD ICEの季節がやってまいりました。ATD ICEとは、Association for Talent Development International Conference & Expositionの略称で人材開発に関する世界最大の会議&展示会として知られています。毎年5月にアメリカで行われ、2015年は5月17日(日)~5月20日(水)にフロリダ州オーランドのOrange County Convention Centerで開催されました。
当社では、毎年ATD ICEに参加することで研修や人材開発の最新トレンドをチェックしています。今年は幸運にも我々が任命され、参加の運びとなりました。
石橋&塙がATD ICEで見てきたこと、感じたことを3回にわたりお伝えしていきます。

1回目は、数字で見た世界最大級の人材開発イベントATDと、その基調講演から感じた世界の人材開発の現在と未来についてをご紹介します。

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ATD ICEの会場入り口の看板

<ATDとは?>

まずは、ATD ICEを主催する団体である、ATDについて紹介します。
ATDとは、組織における人材開発の分野において世界で最も大きな団体で、人々の知識、スキル、能力を向上させることで各自のポテンシャルを最大化することを支援しています。
以前はASTD (American Society for Training & Development)といった団体名でしたが、2014年5月にATD (Association for Talent Development)に名称が変わりました。これは、人材育成に関わる人々の専門性がTraining以上の広範囲なものになっていること、そして6大陸127カ国から成るグローバルネットワークに成長している現状をよりよく表現したいことが理由です。ATDへの名称変更により、タレントデベロップメントにおけるサービスおよびサポートの拡充が期待されています。

<数字で見るATD ICE 2015>

先ほど、ATD ICEは世界最大の会議&展示会と書きました。どの辺りが「最大」なのか、数字を追って見てみましょう。

10,500以上

これは、参加者の数です。参加者は世界中(約80ヶ国)から来ていましたが、中でも日本は172名と韓国、カナダに次ぐ3番目の人数となりました。近年の日本の順位が4~5位であったことを考えると日本でのATDに対する認知度が高まっていることが窺えます。

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ATD ICE恒例の、参加者が名刺を貼るための世界地図

約300

これは、教育セッションの数です。期間は4日間なので、300というセッション数が非常に多いことが見て取れるかと思います。ちなみに、1セッションは60~90分です。
さて、この教育セッションは、10のカンファレンストラックと4つの業界別トラックに分類*されます。
この中で注目セッションは新規に登場した「トレーニング・デリバリー」「インストラクショナル・デザイン」「ヘルスケア」の3つです。
「トレーニング・デリバリー」「インストラクショナル・デザイン」は、2014年度の「トレーニングデザイン&デリバリー」が2トラックに分割されたものになります。トラックが分割されたことにより各セッションで語られるテーマがより明確になった印象を受けました。
「ヘルスケア」は医療業界におけるタレントデベロップメントのニーズが高まっていることを受けて、新たに追加されました。新設により、医療関係者におけるCommunity of Practiceが活性化することで知識共有や情報伝達が促進され、医療業界の発達に寄与することが期待されています。

*トラックの詳細 ( )内はセッション数
カンファレンストラック:「キャリア開発(26)」「グローバル人材開発(24)」「ヒューマンキャピタル(27)」「リーダーシップ開発(32)」「ラーニングテクノロジー(43)」「学習の測定・分析(22)」「学習科学(15)」「(人材関連の)マネジメント(9)」「インストラクショナル・デザイン(29)」「トレーニング・デリバリー(27)」
産業トラック:「政府機関(6)」「高等教育(4)」「営業支援(13)」「ヘルスケア(6)」

400以上

これは、企業・教育機関による展示会(EXPO)の数です。
人材に関わる多種多様な展示内容でしたが、目立ったのは、「タレントデベロップメント(タレントマネジメント、リーダー育成、組織開発など)」と「ラーニングテクノロジー(LMS、eラーニングなどのコンテンツ、SNSなど)」でした。ATDの名のとおりタレントデベロップメントに注目が寄せられていること、また、そこには従来どおりテクノロジーの活用が見込まれることが窺えました。

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EXPO会場の様子

数字のオマケ

これだけ色々と数が膨大だと、なかなか特徴を抽出しづらいところもあります。そこで、約300の教育セッションから、セッションのタイトルをもとに頻出単語を抽出してみました。上位50の頻出単語を見える化してみました(文字が大きいものほど頻出)。Learningに次ぐ頻出単語はDevelopmentであり、Trainingよりもわずかに多く登場しています。この辺りからも、ATDに名称を変えた様子が窺えます。

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頻出単語(教育セッションのタイトルから上位50単語)

<基調講演から感じた人材開発の現在と未来>

基調講演は、ATDがその年のカンファレンスに込めたメッセージを知ることができる貴重な場です。基調講演には3名の方が登壇されました。3名の共通のキーワードとして挙げられるのは、「参画意識(Engagement)」と「創造性(Creativity)」の2つです。従業員の力を最大限に引き出すためには、組織に対する参画意識の向上が必要であり、参画意識の向上が大きなエネルギーとなって創造性に繋がると捉えました。

基調講演の詳細として、ここではATD代表Tony Bingham氏と英国ニューキャッスル大学の教育工学教授であるSugata Mitra氏の講演を取り上げます。

Tony Bingham氏はオープニング時のスピーチで「モバイルラーニング」の重要性について、事例を交えながら語りました。モバイルラーニングは以前から登場しているキーワードであり、目新しさはありません。しかし、「34%の会社がモバイルラーニングを活用している」と紹介もあり、モバイルラーニングの実用化が進んでいることがわかります。
また、モバイルラーニングの特徴となる「短時間」「簡潔」「パーソナライズできる」といった点を生かすことが、モバイルラーニングの活用のポイントだとも挙げていました。

Sugata Mitra氏はテクノロジー世代である今日の子供達向けの指導方法という課題について、これまでの実験と成果を紹介しました。Mitra氏の考案した学習アプローチに、Self-Organized Learning Environments (SOLEs:自己組織的学習環境)があります。これは、教師が生徒に直接教えなくても、生徒の興味を刺激する環境(励ましとインターネット)があれば、独学や他者との知識共有を通じて学びが可能であることを提言しています。Mitra氏はSOLEs等の取り組みを評価されて受賞したTED Prizeの賞金を活用し、「Schools in the Cloud」プロジェクトを開始してSOLEsを広めようとしています。
また、ビジネスへの提言として、「複数人が話し合って課題を解決していくことで、ビジネスは進められる。人材育成も同様に、複数人で知識共有して発見することが重要である。その際には、インターネットなどのテクノロジーを活用できる」と語っていました。Mitra氏の言葉は、テクノロジーが進化する現代において、我々が本当に学ぶべき「探究心の創出」の重要性を提言しているといえます。

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基調講演会場の様子

次回は、教育セッションの中で、注目セッションから感じた人材開発のトレンド「ラーニングテクノロジー」と「インストラクショナル・デザイン」の活用ポイント・活用事例をご紹介しますので、お楽しみに!

著者紹介

グローバルラーニングサービス部 石橋 宏路(いしばし ひろみち)

英語によるIT・ヒューマンスキル研修の実施など、国内や国外向けのグローバル案件の企画~実施、運営まで幅広く担当しています。
趣味は旅行でこれまでに国内外含めて色々なところに行きましたが、日本でのお気に入りは常駐経験もある沖縄です。

西日本ソリューション部 塙 陸一郎(はなわ りゅういちろう)

主に国内研修の企画・開発・実施を担当しています。現在は、Windows関連コースを中心に、データベース関連コース、ITサービスマネジメント関連コース、ビッグデータ関連コースを中心に担当しています。
遠い昔に、修士課程にて、教育工学(主にeラーニングやインストラクショナル・デザイン)や教育心理学を専門とする教授のもとにいました。

(2015/06/18)