「熊大通信」は、2010年8月~10月に掲載した記事を、再度お届けするものです。
こんにちは、佐藤です
さて、『熊大通信』も今回で5回目です。
私がお届けした第3回では学習に寄せる期待について振り返り、教育を"なんとなく"ではなく、より効率的、効果的に行ないたいと考えるならば、教育をシステマチックに捉える必要があるということをご紹介しました。
今回はその期待を達成するための道具の1つとして、ID(インストラクショナル・デザイン)のプロセスモデルについてご紹介していきます。
教育に対する期待とは、言い換えれば教育した結果どのように成長(または変化)するかという目標といえます。
IDプロセスモデルとは、目標を達成するために必要な学習活動を分析・設計・開発・実施・評価の5つのフェーズとして定義するものです。
5つのフェーズは分析(Analysis)、設計(Design)、開発(Develop)、実施(Implement)、評価(Evaluate)の頭文字を取ってADDIEモデルと呼ばれ、代表的なIDプロセスモデルになります。このプロセスモデルのポイントは、下図のように分析フェーズに対して評価フェーズからフィードバックを行い、学習活動を常に改善するようプロセスが循環しているところにあります。
正確にいうと、IDプロセスモデルはIDモデルとは異なるとされており、ADDIEモデルは学習を行う際の手順を示すものであって、その中身(ADDIEモデル図でいうそれぞれのマルの中身)についてはIDモデルを参照しなくてはいけないとされています。
では、各フェーズでは実際にはどのようなことをすれば良いのでしょうか。
IDプロセスモデルの各フェーズで行うべき作業を大まかにまとめると以下のようになります。
IDでは、学習の目標を明確にすることが大事となります。
「○○を使って▲▲ができるようになる」
「○○について部下に説明できるようになる」
など、その学習カリキュラムによって人をどう変えたいかをまず設定します。
そして、この目標をどれだけ達成できるようになったかを測る評価基準を併せて設定します。
このように教育ニーズの分析として、教育対象の設定や、目標と評価基準の設定などを行うことを、分析フェーズとして考えます。
目標を設定したら、目標達成に向けた具体的なカリキュラムの設計を行ないます。
学習期間の設定や目標に合わせた具体的な教授方略(学習目標の種類に合わせた教え方や問題の出し方)などを考えるフェーズです。
目標の種類に適した教授方略なども、IDにおける設計範囲ですが具体的なお話は別の機会にご紹介したいと思います。
分析・設計フェーズが完了したら、実際に学習を行うための準備を進めていきます。
この段階では、学習教材を作成する、eラーニングのシステムを導入する、などのように学習に必要な環境を用意していきます。
カリキュラムや学習環境の設計/準備が完了したら実際に学習を行います。
ここまで来たらあとは、予定通りに進めることが重要です。実施の段階になって、目標を変更したり学習範囲を変更するのは分析・設計フェーズの準備不足と言えます。もし講師のインストラクションでカバーすべき場所があったとしても、それは予め設計されている必要があります。
学習者が設定した目標をクリアしているかを測定します。
目標が達成出来ていない場合は、目標や教授方略だけでなく、期間や対象まで含めてカリキュラムを見なおします。
見直した結果は分析フェーズにフィードバックし、学習内容を改善していくサイクルを実現します。
この時、第3回でご紹介した「キャロルの時間モデル」を用いて、カリキュラムに関わる要因を整理してから分析すると、改善すべき点をより明確にできます。
大学院のとあるカリキュラムで紙教材を作成した際にも、「教材設計マニュアル」(2002 鈴木克明 北大路出版)に基づいて最初に教材企画書を作成し、その中で教材対象の前提知識や学習目標、合格基準を真っ先に決め、テストから設計を始めるということをしました。
これは、目標を分析してから設計に進み、目標ベースで教材を設計するためゴールとなるテストを最初に作るというIDプロセスモデルの出だしの Analysis → Design を実践する演習です。
この演習では、もし目標がぶれるとその後の教材設計・作成に大きな影響を及ぼすという恐怖を味わいました(『熊大通信』を共同で書いている千葉くんも、教材の目標を途中で修正したことで後工程の分析・設計フェーズがやり直しになって苦労していましたね・・・)
また、教材が完成したらそれで終わりではなく、実際に想定していたユーザーに使って貰い、当初設定した目標が達成できるかどうか、達成できない場合に何が原因だったかを調査するのですが、実際に使ってもらうと想定していなかった学習者の行動に出会うこともあり、予定通りに学習が進まないというケースも多々発生します。
同期入学の教材作成報告書を読んでいると、目標達成に向けた障壁とは予想以上に多いことが分かります。
例えば、思いのほかに前提知識が足りなくて教材の途中でつまずいてしまうことや、教材を読みながら問題を解いてしまい、結局十分理解しないまま教材を終えてしまうなど、「え!ここでつまずくのか!」「そんな教材の使い方をするの!?」といった思いがけない落とし穴も・・・。
これは企業内研修でも同じことが言えます。
自分ではこのカリキュラムで目標達成できる!と考えても、実際にやってみるとうまくいかないことは必ずあります。その原因を評価して次回の分析に活かすことで、企業内研修の実施を単発で終わらせずにサイクルとして回し、教育設計の品質向上を図っていける仕組みが作れるのではないでしょうか。
次回は第4回でご紹介したeラーニング導入・運営を成功させる為の、役割(ロール)分担についてご紹介する予定です。お楽しみに!
(2010/09/15)