第3回:教育をする意味~期待を整理して改善へとつなげよう~

  • 理論・研究

「熊大通信」は、2010年8月~10月に掲載した記事を、再度お届けするものです。

こんにちは、佐藤です。
暑い暑い」と毎日言っている気がしますが、気がつけばもう8月も終わりですね。

9月になれば少しは過ごしやすくなるかなと期待する一方、東京では9月から小中高校が一斉に始まるため、また朝の電車の混雑が厳しくなると思うと少し憂鬱でもあります(苦笑)。
季節の変わり目ですので、読者の皆様も体調には是非気をつけてお過しください。

さて、『熊大通信』も今回で3回目です。
今回からは熊大で学習した内容や得た気づきを元にした情報を発信していきます。
主にID(インストラクショナル・デザイン)に関わる内容を発信して行く予定ですが、今回はIDの方法論や具体的活用法の前にまず「なぜ教育を行うのか」について少し考えていただきたいと思います。

【なぜ教育を行うのか】

なぜ企業は社員に教育を行うのでしょうか。
「特定のスキルを身につけさせたい」「定められたプロセスの一部として教育を実施したい」(例えばPマークを取得した企業ならば個人情報の取り扱いに関する教育を行うことがプロセスとして組み込まれている)など理由は様々だと思いますが、共通して言える事は「教育をすればできるようになるという期待を持っていることではないでしょうか。

例えば、教育担当の方ならば学習内容や予算範囲を考えて「こういう教育をやればできるようになるだろう」と教育を企画しますし、教育設計者は学習目標や教授方略を考えて「こういうふうに教えればできるようになるだろう」と教育を設計します。

教育担当者の方は、(もちろん意識していらっしゃる方もいらっしゃると思いますが)割と意識をせずに「こうすればできるようになるだろう」と教育を企画・設計することが多いと感じています。

しかし教育をシステマチックに考え、より効率的、効果的に行ないたいと考えると、教育に対して無意識な期待をするわけにはいきません。
どうして教育をするとできるようになるのか、教育をしてもできないことがあるのはなぜかを考え、できるようになるための改善策を練る必要があります。

【キャロルの時間モデル】

教育をシステマチックに考える際に、とても参考になるのがJ.B.キャロルの時間モデルです。
キャロルは学習率(教育の成果=どれだけできるようになったか)が、学習者の目標達成に必要な時間に対して、実際にどれだけ学習に時間を使ったかの割合で表現できるとして、次の学習率の式にモデル化しました。

        学習に費やされる時間
学習率 =――――――――――――
         学習に必要な時間

そして、キャロルはこの学習率の式を基本としつつ、この式に影響を与える要因として、学習に必要な時間を左右する要因三つと、学習に費やされる時間を左右する要因二つを次のように定義しました。

学習に必要な時間を左右する要因:

学習に費やされる時間を左右する要因:

以上の五つの要因を学習率の式にあてはめると次のようになります。

             学習機会×学習持続力
学習率 = ――――――――――――――――――――
         課題への適性×授業の質×授業理解力

【時間モデルから考えられること】

学習率、つまり学習したことでどこまでできるようになるかを個人の才能や能力と考えず、教育の成果を高めるために学習に必要な時間を分母の要因に注目して減らす工夫と、学習に費やされる時間を分子の要因に注目して増やす工夫ができると考えるのがキャロルの時間モデルです。

時間モデルに基づいて教育を考えることで、「なぜ教育をするのか」、「教育をより効率的、効果的にしたいと考えた時に時間モデルのどの要因にアプローチすればよいか」を整理することができるようになります。

教育ベンダーに勤める社員としても、教育に携わる個人としても、時間モデルの考え方は教育に携わるモチベーションとなっています。

今後の連載では、時間モデルの要因(主に「授業(学習コンテンツ)の質」、「学習持続力」など)に対して、IDの観点からの具体的なアプローチ(分析方法や改善策)についてもご紹介していきます。

次回はeラーニングのメリット・デメリットや導入に失敗してしまった事例からeラーニングを効果的に使うにはどうしたらよいかを考える予定です。どうぞお楽しみに

(2010/08/31)