- 人材管理
人事制度の改革や見直しをしたい!とはいえ、どこからどう手を付ければよいのでしょう。また、制度を形骸化させずに効果的に機能させるためには、どんな工夫がいるのでしょうか。改めて人事制度の意味を知り、目標から逆算して制度の設計・構築するためのコツをまとめました。
人事制度の意味と目的
経営資源には人・モノ・カネの3つがありますが、人事制度とは、この3つの中で最も重要な「人」に関する組織のルールになります。
企業が人事制度を導入する目的は、「経営戦略を実行する」「社員に元気よく働いてもらう」、この2つといわれています。
経営者の経営理念や経営戦略は、人事制度によってすべての従業員に浸透していくものです。
人事制度の手直しに着手する人事部長は、「部分最適」ではなく「全体最適」を達成することを目指すことが大切です。
人事制度の種類
人事制度には広義と狭義の2つの意味があります。広義の人事制度には福利厚生や人材教育・開発などが含まれます。
ここでは狭義の人事制度である、①等級、②評価、③報酬、④昇格の4つの制度について重点的に見ていきます。
貢献度を段階的に定めた「等級制度」
人事制度の骨格ともいわれている等級制度について説明します。
- 目的
- 等級制度を定める目的は、能力、職務、役割ごとに人材を序列化することです。等級制度が「人事制度の骨格」といわれているのは、人材を序列化しないと、評価や報酬、昇格を決めることができないからです。
- 具体例
- 等級制度には3種類あります。 職務等級制度は、仕事を価値別に分類し、価値の高い仕事をしている従業員の等級を高くするルールです。能力等級制度は、従業員の能力によって等級分けをします。 役割等級制度は、この2つの制度をミックスしたもので、価値が高い仕事をしている能力の高い社員に高い等級を与える仕組みです。
貢献度を判断する「評価制度」
評価は従業員のモチベーションと深い関わりがあります。評価の仕方によっては、経営戦略ともうまく結びつけることができますので、評価制度を上手に取り入れてみましょう。
- 目的
- 評価制度を導入することによって、従業員の行動を経営戦略に結びつけることができます。評価によって従業員のモチベーションを高めることにもつながるので、このモチベーションもしっかりマネジメントすることが大切です。 評価制度では、社員の会社への貢献度を判断していくことになります。社員の納得感を高めるため、評価制度を導入する際は、「何を」「どう」評価するかを社員に明示することが重要です。「何を」が評価項目、「どう」が評価基準で、人事部はこれを作成します。
- 具体例
- 評価項目には年功評価、能力評価、職務評価の3種類があります。年功評価は、年齢、入社年次、勤続年数、経験、学歴に焦点を当てる方法です。能力評価は、従業員の能力が高いかどうかを判断し、職務評価では、従業員に課した職務の内容を評価します。
貢献度に応じた給与や賞与の基準を定めた「報酬制度」
貢献に応じた報酬を決めることも、社員のモチベーションに大きく関わります。適正な報酬制度を定めることで社員のモチベーションを高め、人材投資による生産性の向上へとつなげていきましょう。
- 目的
- 報酬制度は給与や賞与など、社員に渡すお金のことを定めたルールです。報酬は社員のモチベーションを大きく左右するので、報酬制度によっても従業員の行動と経営戦略を結びつけることができます。 報酬制度における人事部の役割として、「給料の原資」を適正に配分し、人材投資による生産性の向上を目指しましょう。
- 具体例
- 報酬制度には月給制や年棒制、退職金制度、時間外手当、その他手当などがあります。
等級が上がる基準とプロセスを定めた「昇格制度」
昇格制度をうまく制定することは、社員の質やモラルを高めることにもなります。昇格制度の方式についていくつか見てみましょう。
- 目的
- 昇格制度は、社員に「等級という階段」をどう昇らせるかを定めたルールです。 人事部は、昇格のさせ方と評価制度の整合性を取りながら、その等級にふさわしい人物像を従業員に示すことが必要となります。
- 具体例
- 昇格制度には、卒業方式と入学方式があります。 卒業方式とは、社員がいまの等級ですべきことをすべてクリアした時点で、上の等級に昇格させる考え方です。 一方の入学方式は、その等級にふさわしい人物像に近づいてきた社員を昇格させる考え方です。
その他の人事制度
以上が狭義の人事制度の解説になります。では、広義の人事制度である、福利厚生や人材教育・開発についても見てみましょう。
福利厚生
福利厚生のうち、「法定福利」とは法律で定められた制度です。年金保険や健康保険などの保険料の会社負担がこれに当てはまります。
法定外福利は企業が自由に定めることができ、人間ドック費用の負担や保養所の建設、社内レクリエーションなどがあります。
人材教育・開発
人材教育・開発には、ジョブローテーション、タレントマネジメント、コンピテンシーなどがあります。
通常の人事異動は職場の都合を優先して決めますが、ジョブローテーションでは人材の育成を目的として、幹部候補生など特定の社員をさまざまな職場に異動させます。
タレントマネジメントはここでは「人材の能力、資質、才能(タレント)を人事部が一元管理する手法」とお考えください。
コンピテンシーは、ハイパフォーマー社員の行動と思考を他の従業員に反映させて、社内にハイパフォーマーを増やしていく人材開発法です。
人事制度設計・構築の手順とコツ
人事制度の改定では、人事部長は入念に制度設計を行い、社内のコンセンサスを得て、手順に従って進めていく必要があります。
人事制度を構築する手順には5つのステップがあります。
また、人事制度の刷新による社内のハレーションを小さくする方法として、社外のコンサルタントを活用するのもよいでしょう。制度に客観性が生まれ、従業員の納得が得られやすくなります。
- 1.経営の方向性と求める人材を確認
- 人事部長はまず、経営者に「経営の方向性」とそのために必要な「人材像」の2つを確認しましょう。 経営者は経済状況によって、あるときは変化や挑戦を望んだり、または着実な組織運営をしたりと、経営の方向性を変化させます。「人材の何を評価するのか」「どのような業務運用を評価するのか」は経営者しか決めることができないので、人事部長は経営者の意向を把握しておく必要があるのです。
- 2.等級を決める
- 次は等級を決めます。等級の数は10前後が適切といわれています。等級の数が少ないとなかなか昇格できないので社員のモチベーションが上がりにくいですし、逆に等級が多すぎるとすぐに上がってしまうので昇格の喜びが小さくなってしまいます。 「課長は5~6等級」「部長は7~9等級」といったように、等級は職位と連動させます。また「能力」「役割」「職務」のどれに重きを置くのかも事前に決めておきましょう。
- 3.評価基準を決める
- 評価基準とは、「○○ができたとき、会社はあなたを高く評価します」という内容で全社員に公表することが理想です。 全社共通の評価基準をつくっている企業もありますが、職務内容によって納得度がばらつく恐れもありあまりおすすめできません。しっかり手間をかけてでも管理、事務、開発、製造、営業、販売など、部署ごとに評価基準をつくっておくと効果が上がりやすいです。
- 4.報酬基準を決める
- 報酬基準をつくるときは、報酬、等級、役職の3項目を連動させることに注意してください。「○等級の△役職の人の賃金は□万円」というように明確化していきましょう。 報酬基準は「給与の原資」の範囲内で設定する必要があります。綿密なシミュレーションをしておかないと、「給与の原資」が余ったり足りなくなったりしてしまうからです。
- 5.昇格基準とプロセスを決める
- 昇格は原則、等級を1つずつ昇らせることになりますが、まれに突如ハイパフォーマーに変わる従業員も出てきます。こうした人物をきちんと昇格させないと、退職につながる可能性も出てきます。 しかし闇雲に「2段飛び」「3段飛び」が起きると、せっかく社内に根付いた等級制度や評価制度が名ばかりとなり、本来の意味を失いかねません。 そこで、原則と例外の両方を定めた昇格基準や、昇格させるプロセスを明確にしておいたほうがよいでしょう。
改革・見直しをすべきタイミング
人事制度の大幅な見直しはコストもかかりますし、社内に大きなハレーションを生むリスクもあります。よい人事制度が経営戦略を必ず実現させるとは限らず、タイミングも重要なのです。
企業によっては人事制度を見直さなくても、タレントマネジメントの考え方を導入するだけでハイパフォーマーを生み出せるかもしれません。
人事制度改革は、「人事制度改革でしかこの難題を解決できない」と判断したときにのみ着手したほうがよいでしょう。
まとめ
人事制度は、経営者のビジョンを実現させるためのツールです。人事部長は「変わること」だけが目的にならないよう、新・人事制度の有効性を見極めましょう。
また制度は放置すると、形式ばかりの存在でうまく機能しなくなりますので、新・人事制度を導入した後こそ、適切な運用がなされているか観察することも必要となります。しっかりとモニタリングを行って運用を浸透させることで活力あふれる会社に近づけていってください。