コラム
潜入レポート
「進化思考」ワークショップを体験して自分なりにまとめてみた(後編)

富士通ラーニングメディアの新入社員、IT講師の前島です。
前編・中編に引き続き、この記事では、NOSIGNER 太刀川英輔さん考案の「進化思考」についてお届けします。いよいよ最終回となる後編では、進化対象の変異を中心にご紹介します!
目次
HOW TO進化思考?!(前編・中編からのつづき)
- STEP 1:進化対象「α」を決める(前編に掲載)
- STEP 2:進化対象「α」を取り巻く関係を理解する(中編に掲載)
- STEP 3:進化対象「α」を変異させる
HOW TO進化思考?!(前編・中編からのつづき)
「生物の進化のように、アイデアを発想する思考法」として、進化思考では、変異と関係の理解を繰り返していきます。中編までで進化対象「α」を取り巻く関係を理解していきました。ここまででもアイデアの種はいろいろと沸いてきましたが、後編では「変異」させる方法をご紹介します。
STEP 3:進化対象「α」を変異させる
「α」を変異する手法として、以下の5つの技法を体験してみましょう。
- 欠失
- 融合
- 同化・擬態
- 転移
- 変形
変異させていくときのポイントとなるのは「LIKE」と「PAIN」を見つけることです。
太刀川さんの考えでは、「人は良いなと思うことに引き寄せられ、嫌だと思うことを避ける傾向がある」ため、2つの気持ちにフォーカスして、変異させることが重要なのだそうです。
- LIKE:いい(好き)と感じることを最大化すること
- PAIN:いや(嫌い)だと感じることを最小化すること
特に、自分が嫌い(PAIN)だと思うこと(主観)と、周りが嫌いだと思うこと(客観)がマッチしている場合は、そのPAINを優先的に最小化させると良いとお話しされていました。LIKEの場合も同様に主観と客観がマッチしているものを優先的に最大化させていきます。
欠失は、関係性上で必要のないもの・ムダなくしてみることです。
太刀川さんは、「良いデザインほどシンプルで無駄がない。まずはとにかくシンプルに立ち戻って!」と参加者に呼び掛けていました。私は、家でもモノを捨てられないタイプなので、消すって勇気いるな…と思いながら、進化対象の「α(流せるトイレブラ〇)」からPAINを消してみました。

融合は、「α」に別の要素「β」を組み合わせることです。
今回のワークショップでは、βは会場であるCO☆PITで、目に入るものを抽出して考える流れでした。融合させる何かを探すことで、普段意識していないものからインスピレーションを得ます。
やってみたところ、融合させるのは楽しくできたのですが、私には何か要素を減らすという発想はなかなか出てこなくて、意外と難しく感じました。太刀川さんは「要素を減らしたものは美しい」と言っており、実際にシンプルなテーブルとイスの例を見せて頂きました。これらの例を見ている分には、「そのとおりだ!」と思います。しかし当たり前ですが、納得するのと、できるようになるのは違うのだなと痛感しました。

同化・擬態は、「α」を別のものに似せたり、形質を変換させることです。
これは○○型XXXという形式で考えると分かりやすいと思います。ペット型ロボット、ノート型パソコンなど、身の回りを見渡してみると、○○型XXXは意外と多いのです。今回は、「α」を「β」そっくりにしてみます。ちなみに「β」は、自分の好きなモノや周辺にあるもので考えるとやりやすかったです。
掃除が嫌いなので好きなものと掛け合わせてみました。そこでできたのが、魔法少女が持っているようなスティック型掃除用具。個人的には好きですが、家族が使っているところを想像すると結構シュールかも…?と楽しみながら変異させていきました。

私がワークショップで体験した内容はここまでです。
中編でご紹介した、関係では「α」について多方面から理解を試みたのに対し、変異ではとにかく創造力を働かせ、自分なりにアイデアを発散させていきました。難しいながらも、しがらみにとらわれない子供のようなわくわく感(?)もあって、楽しい作業でした。今回は残念ながら体験できなかった変異の「転移」「変形」については、手法の説明を受けましたので、後日自分でやってみた内容をお伝えします。
転移は、使う人・場所などの関係を変えることです。
使う人・場所などの関係を変え、新しいシーンに適応するように、「α」の形や機能を変異させていきます。これまでの「欠失」「融合」「同化・擬態」では「α」の内部構造に注目して変異させていきましたが、転移では「α」そのものを転移させていきました。「転移」は正直、難しかったです。
例えば、床掃除とかお風呂掃除の用具にしてみても既存の用具のほうがやりやすそうだし、私の思考が凝り固まっているからか、どのように転移するか悩みました。太刀川さんからは転移の成功例として、「文字を書くシーンで使う筆を、お化粧というシーンで使うものに変えて、化粧筆になった」というお話を伺いました。転移が難しかった私には、「どうやったらそうなるのー!」と心で叫んでいました。きっと転移の相性の良い対象があるに違いない、と言い聞かせていました。

変形は、進化対象の大きさや形を変えることです。
進化対象「α」の基本的な機能等を変えずに、大きさ・太さなどの形を変異させていきます。太刀川さんから「変形」のお話を伺ったときは、『「変形」って「欠失」や「融合」と何が違うんだろう?』、『「α」から何かを失くしたり、足したりすれば、それも変形と言えるのかな?』などと考えていたのですが、実際に自分で「変形」を体験したところ、「欠失」や「融合」は何かの意味を含むような要素を、減らしたり足したりいるのに対し、変形は単純に形を変えることで、使うシーンや対象を変えていると解釈しました。
「関係」と「変異」の繰り返しを体験してみて
「関係」と「変異」繰り返して感じた、私なりの解釈をまとめます。
関係は、思い付きやアイデアを、関係によってスクリーニングすることで、アイデアの方向を定めたり、磨いたりしていくことです。
変異は、技法を駆使することで、多くの思い付きやアイデアを発散させることです。
これらの過程では、当事者として主観で思いついたことを、いかに他者や社会にも共感してもらえるかを意識しつつ、主観を客観化させながら、関係と変異を繰り返していく必要があると感じました。
進化思考を体験してみて
体験する前は『進化思考の「進化」って、デザインに対する考え方が進化しているのかな? デザイナーさんの講義だから、なんかオシャレなことやりそうだな」なんて思っていました。
体験後の今は、一つ一つが濃密な情報すぎて、頭が追いついていない!というのが本音ですが、以下のような気付きを得ることができました。
- 進化思考は製品製作だけでなく、様々なことに応用できそう
- たまたま思い付いた1つの事象がいいアイデアとは限らない
- アイデアは何度も何度も改善することで、良いアイデアとして育つ
- アイデアを出すことに注力する前に、対象の理解を怠らない
このワークショップから、「人の創造性を高め、社会が変わるような新しい価値を生み出す人を増やしたい!」という太刀川さんの熱い思いを感じました。アイデアを創り出す方法、を出し惜しみなく伝えていただき、「本当に、ここまで教えていいの?」と驚くほどでした。太刀川さん、ありがとうございました!また、当日に集まってくださった40名近くのお客様もありがとうございました!

太刀川 英輔氏 プロフィール
- NOSIGNER代表
ソーシャルデザインイノベーション(社会に良い変化をもたらすためのデザイン)を生み出すことを理念に活動中。総合的なデザイン戦略を手がけるデザインストラテジスト。Design for Asia Award大賞、PENTAWARDS PLATINUM,SDA最優秀賞、DSA空間デザイン優秀賞など国内外の主要なデザイン賞で50以上の受賞を誇る。