2018年11月30日

コラム

  • インタビュー

藝大生から学んだこと ~いつまでいい子?~(後編)

感性の赴くままに「好き勝手に自由にやろう」と走り出した藝大生とのプロジェクト。

彼らはどのような過程でプロジェクトを進めてきたのか、4人はプロジェクトの中で何を想い、考えていたのか。今回制作したブランドアイテムが、どのように創り上げてきたのか、その秘密を解き明かしていきたい。

 

4人が作ったものは、“CO☆PITの哲学”?

 

城能は“お客様とのコミュニケーションツールがほしい”と言うだけで、具体的なオーダーはせず、空間に込めた想いを伝えるのみだった。だから彼女たちは愚直にコンセプトを体現しようとした。ただし、城能は単に“ブランドアイテムをデザインしてほしい”とは思っていなかった。

ここからは彼らの対話から、ブランドアイテムを創った過程と込められた想いを明らかにしていく。

城能:このアイテムはアートとデザイン半々を狙いに行ったんだよね。彼女たちが僕や空間から感じ取った感覚・感性で、彼女たち“らしさ”を表現してほしかった。僕には到底表現できないものをね。

後藤:そこが一番悩みましたね。私が一旦アーティストになりきるしかない、そのあとデザイナーになろうと思いました。

近藤:城能さんがアートに求めていたこととは?

城能:僕自身が自分の中にあるものを表現するのは難しいと思っていて。今回は、すごく愚直に自分が抱いている感覚を上手く表現してもらいたくて、アートという言葉を使ったと思う。自分は、デザインの勉強をしてきたわけではないけど、場のデザインを通してやってきたことは、「僕や誰かの強い思い(主観)を多くの人にも共感してもらえるように客観化させて場を創る」ということだった。それを説明して伝えるのではなく、直感的に感じてもらいたい、人によって色々な解釈ができるようにしたい、というような想いがあった。非言語で共鳴できるような関係でいたいから、アートでいいよって言った。

後藤:主観的でありたい、主観的にさせる場所ってことか、「そうか~」って今思いました。ようやく辻褄が合いました。しっくりくる言葉だった。

城能:上手いとか下手とか芸術性にこだわりはなくて、自分たちが愛せるものでありたい。それを僕たちが大事にしているものをお客さんにも大事にしてもらいたい。そういう意味で、出来上がったものは哲学に近づいたかな、と。

小山:城能さんを持ち歩いている、そんな安心感があるアイテムですね。子どものときの知識も何もないただ感情のままに作ることができて楽しかったです。


このプロジェクトは「自分たちがいいと思うか、思わないか」という基準のもと進んでいた。自分たちが愛せるものでありたい、そんな想いでブランドアイテムを作りあげてきた。

このアイテムは“自分たちがやりたいことを、やりたいようにやる”メンバー全員が体現されたものだった。それができたのは他でもなく、CO☆PITという空間があったから。CO☆PITという空間が「それでいい」と背中を押してくれたから出来上がったのだと私は思った。

城能と藝大生は、何度も「自分自身の想いと解釈」をぶつけ合ってきた。その繰り返しだった。お互いの感性や感覚を共有していく作業だったのだと思った。

そして新しいものが生まれた。その様子はまさにCO☆PITで行って欲しいことを体現したものだった。

 

 

そんな過程で出来上がったアイテムは、8~9割のお客様に理解されないらしい。城能は笑いながら語る。

だからこそ対話のツールとして、すごく良い使い方ができるようになったそうだ。

 

藝大生たちがブランドデザインを通して見た社会

「毎日ピシッと髪型をセットして、いつもの満員電車に乗り込む。」それが彼女たちのイメージするサラリーマンの姿だった。

「ふと品川の朝の凄まじい人混みをみて、みんなリーゼントなら面白いよなって思って。」

本当に全員一緒に見えて、正直ひいた。これっていいのかな?毎日たのしいのかな?って。そんな発想から尖って自分らしく新しい1歩を踏み出せるサラリーマン、「NEOリーマン」が誕生した。CO☆PITに来た人にはNEOリーマンを描いてもらい、それぞれの人にとっての新しい1歩を踏み出す後押しをしている。

「世間体を気にしてガチガチに縛られてしまっていると、きっと悩んでしまうと思います。何を描けばいいの?とか。これはどんな意味があるのか?とか。そういう大人には描けませんよ。」そう後藤さんは言い放った。

「自由を苦しめ」「ルールのない海にでろ」「肩書のない自分を表現しろ」

これが今回のブランドアイテムのコンセプトであり、込められたメッセージだそうだ。

「描くっていうことは、どうでもよくなる力があるというか、何かしらちょっと解放的になれるのかもしれない。だから頭で考えたりとか、世間体を気にしたりだとか、一回このアイテムの中だけでいいからやめてください。ちょっと解放的になってください。どうでもいいやって思って行動した瞬間、道が拓ける。私が言うのもあれですが(笑)」

私は「大人」にならない

 

高校生の頃から「変じゃない人に同化した」私は今年、会社員になった。

毎朝、品川駅の改札を出ると、たくさんの大人たちが暗い顔で下を向き、出口へと吸い込まれていく。その様子を見て、入社当初「絶対こうなりたくない」と思った。だからせめて私だけでもと思い、口角を上げ、少し上を見上げて歩いてみた。たったそれだけのことだったが、光が差し込んだように明るい気持ちになった。

今、右も左もわからない状態でただひたすら組織の中で“正”とされていることを吸収する日々を過ごしている。たとえ、ほんの少し違和感があったとしても「周りがそう言うから」。このままだと入社当初の自分を裏切ることになる。言われることをこなして、量産されていく、つまらない大人になってしまう。

CO☆PITという空間に入り、今回のインタビューを終えて、縛られていたものから少し解放された気がする。自分を大切にしていいのだと。

だけど今は圧倒的に経験不足だ。これからたくさんのことを経験していきたい。そして自分の気持ちに素直になって堂々と行動できる社会人になりたい。そう思わせてくれたのは大人じゃなく、いつまでも無邪気で純粋な学生だった。

藝大生が教えてくれた言葉を、いくつになっても言いたい。

「今好きなことを、今やっています」と。

 

 

取材協力・デザイン

  • 東京藝術大学美術学部 デザイン科 後藤由芽さん
  • 東京藝術大学美術学部 芸術学科 近藤銀河さん
  • 東京藝術大学美術学部 芸術学科 小山このかさん

執筆者プロフィール

取材・文:村山由希子、撮影:高橋里衣

富士通ラーニングメディア 2018年度新入社員
SE研修、営業実習を経て、講師になるため日々勉強中。