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暗黙知とは?形式知の違いとフレームワークについてわかりやすく解説

暗黙知とは?形式知の違いとフレームワークについてわかりやすく解説

2023/11/16

暗黙知や形式知という言葉を聞いたことはありますか?

これは、1891年にハンガリーで生まれた物理化学者マイケル・ポランニーが研究に携わる中で得るに至った、哲学的な概念です。日本では、1990年代頃アメリカから広まった企業におけるナレッジマネジメントの考え方とともに、この概念が広く知られるようになりました。ナレッジマネジメントに取り組み、どのようにナレッジを蓄積し活用していくかを考えるとき、暗黙知・形式知の概念は切っても切り離せないものです。

そこで、この記事では、暗黙知とは何か、暗黙知と形式知の違いや、企業の暗黙知のナレッジを形式知化するフレームワークについて、詳しく解説します。ナレッジは企業の重要な知的財産であり、新たな価値を創造する源となります。暗黙知の概念についてぜひ知っていただき、今後の企業活動に活かしていただければ幸いです。

暗黙知とは?

暗黙知とはどのような概念でしょうか。
マイケル・ポランニーによる定義と具体例、さらに企業のナレッジにおける暗黙知の具体例をご紹介します。

マイケル・ポランニーの『暗黙知の次元』で提唱

暗黙知とは、マイケル・ポランニーの説明を紐解くと「言語の背後にあって言語化されない知」というものになります。著書『暗黙知の次元』において、次のように述べています。

「私たちは言葉にできるより多くのことを知ることができる」
「暗黙知が内在化することで理解を遂げる」
(『暗黙知の次元』(マイケル・ポランニー著 高橋勇夫訳より)

暗黙知の例として、同書では「人の顔の認知」の例を挙げています。知り合いの顔は、百万人の中からでも見分けることができるものの、私たちはなぜ自分が知っている顔を見分けられるのかを言葉に置き換えられない。こういった言語化の難しい認知のことを暗黙知と定義しています。

そして、「暗黙知が内在化することで理解を遂げる」については、相手側の知的な努力があれば、ある人の暗黙知が相手に伝わると説明しています。

わかりやすくいうと、人間が持つ知識には、簡単に言語化できないものが多く含まれ、そういった知識を他の人に伝える際は、言語化されていない知識をくみ取るよう、伝える側も聞く側も努力が必要となる、ということになります。

暗黙知の具体例

暗黙知の具体例

暗黙知は、経験や勘によって個人の頭脳に蓄積された、言葉で説明するのが難しいナレッジととらえることができます

企業のナレッジではどのようなケースが暗黙知にあたるのか、具体例を考えてみましょう。

例えば、車両などの溶接を行う工場の担当者が、強度が高く、継ぎ目も美しい溶接を行う技術。溶接対象の金属素材は日々進化しており、作業中は気温や湿度など環境による影響もありながら、どのように都度最適な技術を選び取っているのか。

または、トップ実績の営業担当者が、取引見込みのある企業の状況をどの範囲までつかみ、キーパーソンとどのレベルまで信頼関係を築き上げているのか。

こういったナレッジは、背後にある試行錯誤や失敗談、類似事例、観察の中で気づいたこと、といった言語化されていない経験を理解しないことには、他の従業員が同じレベルで理解し行動に移すのは難しいでしょう。

暗黙知と形式知の違い

暗黙知と形式知の違い

言葉で説明するのが難しい暗黙知に対して、形式知とは、言語化し明示することが可能な知識のことをいいます。

『知識経営のすすめ-ナレッジマネジメントとその時代』(野中郁次郎・紺野登著)には、暗黙知と形式知の特性について、以下のようにまとめられています。

暗黙知と形式知の違い

自転車に例えると、暗黙知は「体がバランスをとれると自転車に乗れること」です。体のバランスをとる方法は人それぞれであり、言葉では説明しにくいものです。形式知とは、例えば自転車のブレーキの仕組みのこと。「ブレーキから部品に力を伝え、ホイールの動きを止める」という仕組みを、言葉で説明することができます。

企業のナレッジでいえば、形式知は文章や図などで説明が可能な業務知識のことであり、溶接の例でいえば、必要な溶接機材や電流、気温や湿度のデータなどです。こういった業務知識は業務マニュアルや機械の操作マニュアル、手順書などで形式知化している企業は多いですが、暗黙知のナレッジをいかに形式知化していくかが課題になっています。

暗黙知を形式知化するナレッジマネジメントのメリット

ナレッジマネジメントとは、従業員が持つナレッジを蓄積する仕組みを作り、その仕組みによって新たな知識や価値の創造にナレッジを活用していくものです。

ナレッジには暗黙知や形式知がさまざまなレベルで混在しており、言語化しにくい暗黙知を形式知化して活用できるナレッジに転換していくのは難しいテーマではあります。しかし、マイケル・ポランニーも「暗黙知が内在化することで理解を遂げる」と述べているように、全く不可能ではありません。

暗黙知を形式知化し活用するナレッジマネジメントにはどのようなメリットがあるのか、主なメリットを3つご紹介します。

従業員のスキルの底上げと組織力の強化

暗黙知を形式知化するナレッジマネジメントのメリット

暗黙知を形式知化し、ナレッジとして社内で活用できると、従業員のスキルの底上げと組織力の強化につながります。

暗黙知のナレッジを、できる限りわかりやすい形にしてナレッジとして蓄積すると、多くの従業員がそのナレッジを土台にして試行錯誤し始めます。もっと再現性のある技術や経験則を発見し、新しいナレッジとして再構築していくことができます。

誰か一人の有能な従業員のナレッジではなく、従業員が共通して持つナレッジとなり、スキルの底上げにつながります。業務の質が上がり、企業の利益拡大に貢献します。

また、組織力とは、企業の目的達成のために従業員が一致団結することで発揮される大きな力であり、高度なナレッジが社内の共通言語となれば意思疎通がスムーズになり、目的に向かって加速した行動がとれるようになります。高度なナレッジはそのものが商品やサービスにもなり得るため、他社にない強みとなり、それがさらなる組織力強化にもつながります。

業務の属人化防止

業務の属人化防止

従業員の暗黙知のナレッジを形式知化することで、業務の属人化防止につながります。

属人化とは、業務が特定の個人のものになってしまう状態のことです。業務が属人化すると、その従業員しかわからないナレッジが増え、その人が休暇をとると業務がストップしたり、顧客からの問い合わせに周囲の従業員が対応できなくなったりします。急な従業員の転職・退職があると、その従業員のナレッジが企業から失われかねません。

暗黙知から形式知化し、ナレッジを共有すると、お互いに業務をサポートできる体制を作ることもでき、休暇をとりやすくなるなど従業員にとって働きやすい職場になります。

また、特定の従業員にナレッジが偏りにくい体制になります。属人的なオリジナルのルール、暗黙のルールなども生まれにくく、従業員が行動しやすい、風通しのよい職場になっていきます。

人材育成のサポート

人材育成のサポート

暗黙知をわかりやすく形式知化できると、ナレッジが人材育成をサポートする教材として機能します。

ナレッジをわかりやすく蓄積すると、OJT指導や研修の場で、教材として活用することができます。動画にすれば、音や色、素材の状態など言語化しづらい状況を伝えやすくなります。

こうしたナレッジによって、新入社員や人事異動で転入した担当者、休職して業務から離れていた従業員に、業務をわかりやすく伝えることができます。付きっきりで指導しなくてはならなかった先輩従業員の手間を減らしながら、早期の戦力化を図ることができるようになり、人材育成の一助となります。

暗黙知を形式知化するナレッジマネジメントの具体的な方法

暗黙知を形式知化し、活用できるナレッジにどう転換していくのか。

これは、業種やナレッジの性質によってさまざまな方法が考えられますが、ナレッジマネジメントの考え方においていくつかのヒントが示されています。

活用できるナレッジに転換し、ナレッジマネジメントを継続していく上でのヒントを5つご紹介しますので、組み合わせて実践してみてください。

【1】経営学者の野中郁次郎氏提唱のSECI(セキ)モデルの活用

暗黙知を形式知化するナレッジマネジメントの具体的な方法

前出の『知識経営のすすめ』において、野中郁次郎氏が紹介しているSECI(セキ)モデルの活用です。

これは、フレームワークを用いて暗黙知を形式知化し、ナレッジマネジメントを実行するものです。以下の4つのプロセスを繰り返し通すことによって、形式知へと変換します。

(1)共同化(Socialization)
身体や五感を使い、共同で直接体験をすることで、暗黙知を暗黙知のまま伝える。フェース・トゥ・フェースで原体験することが望ましい。

(2)表出化(Externalization)
対話や思慮によって、概念化・デザイン化を図り、暗黙知を形式知に置き換える。イメージや思いを感じ取り、グループでの討議なども行い、言語化や図像化を図る。

(3)連結化(Combination)
形式知の組み合わせにより、新たなナレッジを創造する。情報伝達ツールを用いて、形式知を共有する。

(4)内面化(Internalization)
形式知を行動・実践のレベルで伝達し、新たな暗黙知として理解する。シミュレーションや実験を行い、オリジナルのナレッジとして再現・獲得する。

野中氏によれば、ただ単にフレームワークにナレッジを当てはめるのではなく、このプロセスによってどんな目的を達成するのか、どんな理想状態を目指すのかといった意識を持ちながらプロセスを実行していくことが肝要です。

【2】SECIモデルに必要な4つの場

次に、SECIモデルを実践する際に有用となる、「4つの場」をご紹介します。

SECIモデルの4つのフェーズに合わせた適切な場を作ることが、暗黙知を形式知化し、ナレッジマネジメントを成功させるためのポイントとなります。

(1)共同化(Socialization)の場
従業員同士や、顧客や取引先と従業員で対話ができる場所。テレワークが普及した現代においては、オンラインも含まれる。

(2)表出化(Externalization)の場
グループによる討議ができるような場所。共同化の場と同様に、オンライン・オフラインどちらもある。

(3)連結化(Combination)の場
ナレッジを蓄積するためのシステムの場所。グループウェアやツールなど。

(4)内面化(Internalization)の場
ナレッジを実践する場所。職場、店舗、作業スペースなど。

こういった場がなぜ重要かというと、ナレッジ共有の一つの手がかりとなるからです。アメリカの知覚心理学者ジェームズ・J・ギブソンが提唱したアフォーダンス(環境の中には人間の行動を誘発するような情報が含まれている)という概念が示すとおり、ベテラン従業員のデスクの脇で仕事を見たり、取引先に営業担当者と同行訪問してトークを聞いたりすることで、暗黙知の情報を得ることにつながります。

連結化の場は、人が行く場所というよりもツールやシステムなどのイメージです。デジタル化され、検索が容易な場所になっていないと、蓄積したナレッジを素早く検索することが難しくなります。

【3】ナレッジリーダーによるナレッジ活用のビジョン策定

ナレッジリーダーによるナレッジ活用のビジョン策定

企業が一丸となってナレッジマネジメントに取り組むためには、ナレッジリーダーを設定し、ナレッジをどう蓄積・共有し、活用していくかのビジョンを策定します。

ナレッジマネジメントを継続していくためには、責任者を設置し、推進していくリーダーを決める必要があります。一度はナレッジを蓄積したとしても、ナレッジを活用しない、新しいナレッジを創造しない、創造したナレッジを蓄積しない、といった状況になれば、形骸化した古い情報になり下がります。

野中氏は、ナレッジリーダーについて著書の中では「ナレッジ・プロデューサー」と呼んでおり、企業のトップとナレッジについてのビジョンを共有し、ナレッジマネジメントの体制や予算、場の設定やツール選定など、ゼロからナレッジマネジメントをプロデュースする立場です。必要となる資質は、利他的で前向きな考え方ができ、ナレッジに対する感覚が優れていること。このような人材がリーダーとなれば、ナレッジマネジメントにより新たな事業の柱が生まれることも期待できます。

【4】ナレッジマネジメントツールの活用

ナレッジマネジメントツールの活用

ナレッジを蓄積し共有するためのツールとして、ナレッジマネジメントツールを活用します。SECIモデルにおいて、形式知化したナレッジを蓄積していく場所でもあります。

近年、さまざまな種類のナレッジマネジメントのためのツールが開発されています。自社のナレッジがどのようなもので、どんなナレッジを資産化していくかを把握した上で、ツールを選択するとよいでしょう。

例えば、ナレッジを組織内の一ヶ所に集約していきたいのか、社内外の関係者とネットワークを通じて共有していきたいのか。もしくは、ナレッジによって業務を改善していきたいのか、過去のナレッジを土台に新しい価値を生み出していきたいのか。これらの2つの軸を使って検討するのであれば、次の4タイプに分かれます。4タイプのイメージに近いツールもご紹介しましょう。

(1)ナレッジを集約し、改善していきたい…マニュアル作成ツール、文書管理システムなど
(2)ナレッジを集約し、新しい価値を生み出していきたい…ビジネスインテリジェンスツール、社内Wikiなど
(3)ナレッジを社内外と連携し、改善していきたい…チャットツール、チャットボットなど
(4)ナレッジを社内外と連携し、新しい価値を生み出していきたい…ヘルプデスクツール、グループウェアなど

【5】ナレッジマネジメントの取り組みのサポート

暗黙知・形式知のナレッジを蓄積し、共有する流れを継続していくために、ナレッジマネジメントの取り組みを企業全体でサポートする体制を構築します。

せっかく蓄積したナレッジであっても、従業員が存在を知らなかったり、知っていても忙しくて手つかずになったりしては、全く意味がありません。例えば、次のような施策を講じることで、ナレッジマネジメントを継続していきましょう。

  • 企業の理念やビジョンで、知を創造する企業であることを明示する
  • ビジョンに基づき、ナレッジマネジメントへの取り組みを従業員に啓蒙する
  • 従業員全員でナレッジマネジメントツールに携わり、新たな価値の創造を体験する
  • ベテラン従業員のナレッジ継承意欲を高めるインセンティブを用意する
  • ナレッジマネジメントへの取り組みに関する評価制度を導入する
  • ナレッジマネジメントのためのツールを高度化し続けていく

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まとめ

今回は、暗黙知と形式知の定義や、暗黙知を形式知化するメリットや具体的な方法についてご紹介しました。

マイケル・ポランニーによって提唱された暗黙知・形式知は、学究の場や企業などナレッジを取り扱う場所において認識される概念です。暗黙知の形式知化はたやすいことではありませんが、野中郁次郎氏提唱のSECIモデルやナレッジマネジメントの考え方がヒントとなります。

暗黙知を形式知化し、企業がナレッジを資産として蓄積し活用していくことで、従業員のスキルの底上げや組織力の強化、属人化防止、人材育成のサポートなど、多くのメリットが生まれます。ぜひナレッジの有用性を認識していただき、新しい価値の創造に取り組んでみてください。

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参考文献:
『暗黙知の次元』(マイケル・ポランニー著 高橋勇夫訳 ちくま学芸文庫)
『知識経営のすすめ-ナレッジマネジメントとその時代』(野中郁次郎・紺野登著 ちくま新書)

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