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特別対談|内山泰伸教授×F@IT Kids Club代表・大木Column

コラム2020/04/17

AI時代に求められる次世代人材を育てるのは"垣根のない"教育

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立教大学 内山泰伸教授(右)、F@IT Kids Club代表・大木(左)

小学校ではプログラミング教育が必修化され、テクノロジーの浸透によりいつまでも同じような環境が続かない"不確実な時代"が来たと言われている昨今。

今子どもにどんな教育を与えれば、これからの時代を力強く生き抜いていってくれるのか。「ITリテラシーが必要とはいうけれど、自分たちの時代とは違いすぎて、今ひとつピンと来ない」。ーーそんな悩みを抱える親御さんも多いのではないでしょうか。

今回は、国内初となるAI専門の大学院「人工知能科学研究科」開設準備室長の立教大学・内山泰伸教授と、F@IT Kids Club(ファイトキッズクラブ)代表・大木宏昭が特別対談。

大学院で「大人」にAIを教える内山教授と、F@IT Kids Clubで「子ども」にプログラミングを教える大木。それぞれの立場から、次世代に必要とされる教育について語ってもらいました。

 

AIはエンジニアだけに必要なスキルではない。テクノロジーの素養は万人に必要

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大木:F@IT Kids Clubを立ち上げる以前は、エンジニアとして銀行のシステムを作っていました。当時はATMをコンビニに設置したり、24時間使えるようしたりと一生懸命やっていたのですが、キャッシュレスが世の中に普及し現金を持たなくなった途端、「銀行の役割って何だろう?」と。当事者が自分たちの存在意義を考えざるを得ない状況になりました。
この出来事は、今まで当たり前だと思っていたことの意味がなくなってしてしまう時代に入ってきたことの象徴だと思います。その変化は、テクノロジーの進化によって起きているものです。現代は私たちが子どもだった時代とは大きく変化しており、これからの社会を生きる上でテクノロジーの素養は万人に欠かせません。そして、こんな"不確実な時代"だからこそ、「右に行くべきか、左に行くべきかわからない」という状況は頻繁に発生します。それをリスクではなくチャンスとして捉えるポジティブな姿勢も必要です。次世代には、「テクノロジーの素養」と「ポジティブなマインド・思考」の両方が求められていると思います。

内山教授(以下、敬称略):たしかに、今後は何かに固執することをやめざるを得ない時代だと思いますね。"不確実な時代"は、曖昧さをある程度飲み込んだ状態でなければ前に進めません。目の前の状況に対処していくためには、「自分はこれしかやらない」という変なこだわりは捨てなくてはならないでしょう。

大木:人工知能科学研究科には、そのような古いこだわりを捨て、変化をポジティブに受け止めようとしている人が集まっているのではないかと思いますが、いかがでしょうか?

内山:その通りで、弁護士や会計士、銀行員、教員、メディア関係者など、多様な職業の社会人が入学します。自分の専門領域にAIを活かしたいという人が多いですね。

大木:プログラミングの経験がない方も多いのでしょうか?

内山:入学者の半数以上は非エンジニアです。しかしAI大学院では、プログラミングの知識もしっかり学んでもらうことを前提にしています。今さまざまな企業でAIの利活用が進んでいますが、日本企業は企画・プロデュースをする人とそれを実装するエンジニアの役割がはっきり分かれているので、実際にプランニングをする人の多くが「技術をどう使えば有効なのか」をよくわかっていないんです。表面的な知識しか持っていない人がAIを活用しても、結果は今一つになりがちです。現場のエンジニアほどではなくても、実際にプログラミングをしてAIを使ってみた経験があるかどうかで雲泥の差が出るものです。

大木:たしかに実務の現場では、企画力やドメインの知識を深く持っていることに加え、エンジニアリングスキルがある人がチームにいた方がモノも作れますし、早く進みます。特に新しくサービスを始めるときですね。とりわけ今の時代は、そうした"テクノロジーを駆使してアウトプットできる人材"が重宝される傾向にあります。ただ、今の社会で全員がそうした人材になれるかというと、すぐには難しい。現時点では、内山先生の大学院やF@IT Kids Clubで、プログラミングの知識を教えることで、ITを活用できる人を地道に増やしていくことに意味があると考えています。

 

テクノロジーを学ぶきっかけ作りは「大人の責任」

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内山:大学院には、プログラミングを学ぶ必要性を理解した上で入学してもらっています。しかし社会人であっても、プログラミングが未経験の方の場合、何かすごく難しいことに取り組むように感じている印象を受けます。大木さんは親御さんに、プログラミング教育の重要性をどのように伝えているのですか?

大木:プログラミングが今の社会と密接に繋がっていることや、論理思考や忍耐力を学ぶ能力開発ツールとしても優れていることをお話します。総論としてはご理解いただけますが、「まだ勉強するには早いんじゃないか」という声も多いです。ただ、教室でたくさんの子どもたちを見ていて思うのは、「何かを始めるのに早くて悪いことはない」ということ。興味を持って取り組む子どもたちは、何歳であっても伸びていきます。親御さんの立場に立つと、"早い遅い"を気にしてしまう気持ちはわかります。でも大事なのは、子どもが興味関心を持てるかどうかだと思っています。
ちなみに、息子たちには幼稚園からテニスをやらせているのですが、興味関心があれば上達するし、長く続けることもできます。プログラミング教室で子どもたちに接するときにも同じことを感じています。

内山:プログラミングに限らず、何かを学び始める時期に正解はないでしょうね。どこを目指すかによっても変わってくると思います。テニスの話で言えば、プロテニスプレーヤーを目指すのなら早く始めるに越したことはありませんが、普通に楽しむのであれば、何歳で始めても関係ありません。プログラミングも同じで、大学院でプログラミングを学び始めるのが遅いということはないんです。1年学習すれば、普通に使うには十分。焦って始める必要はありません。学び始める時期は本人の関心次第と言えると思います。

大木:本当にそうですね。実際に教室でプログラミングを学び始めた子で、つまらないと言う子はほとんどいません。プログラミング自体にゲーム性があるので、子どもでも興味を持ちやすいんです。

内山:大木さんのスクールにはぜひ、プログラミングをもっと当たり前の存在にする役割を果たしてもらいたいですね。スイミングやピアノを習うのと同じように、プログラミングを学ぶのは特殊なことではないという認識を社会に広めてほしいです。プログラミングは社会のどこでも使われているもので、学ぶことによるチャンスも大きい。そのことをまず親御さんに理解してもらえなければ、将来子どもがそうしたチャンスを掴むことも難しくなってしまいます。実際、プログラミングにのめり込むかどうかは子ども次第だとしても、プログラミングに興味を持ったり、学べたりする環境を用意するのは、大人がやるべきことだと思いますね。

 

苦手なことがあっても、興味を追求すれば道は開ける

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大木:ところで内山先生は、子どものころどんな夢を持っていたのですか?

内山:宇宙物理が専門なので、「小さい頃から星が好きだった」というコメントを期待されたりするのですが、全然そんなことはないんです(笑)。幼いころは、できないことが多かったんですね。嫌いな食べ物が多かったり、泳げなかったり、歌が歌えなかったり。そんな子どもだったので、「このままではまずいぞ」と。子どもながらに、自分はどうやって生きていけばいいんだろう?と真剣に考えていました。幸い算数は得意だったので、自分はこれで生きていくしかないと、小学校高学年のときにはすでに決意していましたね。できないことが多かった反動で、専門性を突き詰める方向に進んだんです。

大木:それは子どもたちにもぜひ伝えたいストーリーですね。F@IT Kids Clubに通っている子はプログラミングに熱中しているので、本当にプログラミングが好きなら、ぜひ突き詰めてほしいなと思いますし。

内山:僕みたいに得意不得意がはっきり分かれる人は珍しいと思いますけどね(笑)。でも、人と違うことや苦手なことがあっても、これはと思えるものが見つかれば道は開けます。もし「苦手なことばかりだけどプログラミングは好き」という子どもがいたら、教室に通うことで救われるかもしれないですね。

 

人・文理・業界――"垣根を取り払った"教育が次世代を育てる

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大木:内山先生は物理学科の教授を務めるかたわらで、人工知能科学研究科を立ち上げられました。新しいことをスタートさせるのは大変だったのではないかと思いますが、スムーズに進んだのでしょうか?

内山:いえいえ、苦労しかありませんでしたよ(笑)。外部には賛同者が多かったものの、学内の説得は大変でした。中には強い反応を示す方もいましたが、それはきっと、この大学院の設立が及ぼす影響の大きさを察知してのこと。面白いことになってきたと思いましたね。

大木:そうだったんですね。実は私も、社内で子ども向けのスクールを立ち上げたいと提案したときには、反対意見がありました。採算が取れるのかとか、社会人教育と子ども教育は違うとか。やったことのないことに対する抵抗や変化へのアレルギーは、大学も企業も同じなのかもしれないですね。

内山:そうですね。でも私自身については、人工知能科学研究科を立ち上げて生活が180度変わりました。その変化をポジティブに受け止めています。今までは宇宙物理という、ある種ものすごく狭い世界で生きてきたんですね。それが今回の取り組みを通じて、今までは出会えなかった人とも出会い、さまざまなことを学びました。自分自身の垣根を取っ払って正解でした。これからは「学ぶのは学生」という垣根も取っ払いたいですね。人工知能科学研究科の初年度入学者の7割は社会人なので、垣根のない教育を実行できることを楽しみにしています。

大木:私も「垣根を取り払う」ことについては大賛成です。これからの時代、学校の先生が全てを教えるのは難しい状況のなか、教育もシームレスになるべきです。自分たちも含めた多種多様なプレーヤーがコラボしながら教え合う必要があると思っています。

内山:私は文理の垣根も取り払うべきだと考えています。日本人には、「テクノロジーは一部の人が理解していればいい」と思っている人が多いかもしれませんが、それは本当にまずい。学校教育で言えば、「高校生で進路を決めたら、専門領域以外に関わらない」と決めてしまうことも危険です。今はどの分野においても、テクノロジー抜きに未来を語ることはできません。

大木:本当にそうですね。プログラミングも、世の中の課題を解決するための手段にすぎません。だから、プログラミング"だけ"を学ぶことにはあまり意味がない。「なぜプログラミングが必要なのか」「プログラミングは社会のどんな問題を解決できる可能性があるのか」。そうしたことを考えながらプログラミングを学ぶことによって、はじめてITの知識を社会で役立てられるようになります。次世代を生きる人たちに必要なのは、いろいろな面での"垣根のない"教育だと思います。

今回、「大人」と「子ども」の異なる立場にテクノロジーを教える2人の教育者から、次世代の教育に対して熱い思いを語っていただきました。"不確実な時代"を生きる次世代の人材にとって、AIやプログラミングといったITの素養を養うことは必須です。テクノロジーを学ぶ際に大切なのは、その技術をどう社会に役立てるのかを考えながら学ぶこと。そのために今、文系/理系、社会人/学生、企業/学校、国境などのさまざまな垣根を越えた、多種多様な価値観や視座を取り入れる教育が求められていると感じました。


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naka.jpg内山泰伸教授 プロフィール
2003年、東京大学で博士号(理学)取得。その後イェール大学、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、スタンフォード大学などで宇宙物理学の研究活動に従事。日本天文学会第21回研究奨励賞、公益財団法人宇宙科学振興会第5回宇宙科学奨励賞など、数々の受賞歴や講演経験を持つ。現在は立教大学理学部教授。2020年4月に設立される日本初のAIに特化した大学院「人工知能科学研究科」では、設置準備室の室長として立ち上げを牽引。今後は大学院の教授として応用人工知能の研究も推進予定。

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大木宏昭 プロフィール
株式会社 富士通ラーニングメディア 人材育成サービス事業部 プロジェクト部長。立教大学社会学部卒。システムエンジニアとして都市銀行のシステム構築に従事し、三行統合のプロジェクトなどに携わる。その後、現職にて、企業向け人材育成サービスを提供。2017年に富士通グループの子ども向けプログラミングスクールF@IT Kids Club(ファイトキッズクラブ)を立ち上げる。WROJAPAN本部実行委員、2018年WROタイ国際大会審査員。小中学生の息子が3人いる。


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