多能工化が進まないときは何をすべきか?要因・チェック項目・打開策を徹底解説!
2022/10/04
多能工化とは、従業員が1つの業務だけでなく複数の業務を行えるスキルや能力を開発することであり、製造業や建設業、小売業、旅館業などで広く取り入れられている施策です。「兼任化」「マルチスキル化」といった表現を用いる業界・企業もあります。
多能工化のメリットには、業務の平準化による従業員の負担軽減や残業の削減、処理能力向上による受注量アップなどに効果がありますが、課題も多く、多能工化がなかなか進まない企業も多いようです。
そこで、この記事では、多能工化が進まない要因を分析し、皆さんの会社ではどの要因が当てはまるかを探るためのチェックポイントや打開策をご紹介します。多能工化の推進にぜひお役立てください。
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多能工化が進まない要因
まずは、多能工化が進まない要因について見ていきましょう。
多能工化は、生産性が向上するなどの企業へのメリットがあるだけでなく、従業員にも成長を実感し働き方に柔軟性を持てるメリットがあります。多能工化に頑張って取り組み始めたものの、生産性の低下やマネジメント、評価制度や負担増などの要因があると、多能工化がなかなか進まない状況になります。
どのような要因なのか、一つずつご説明します。
生産性の低下
多能工化が完了するまでは生産性が低下しがちである、という要因です。
多能工化するには、従業員の育成の手間と時間がかかります。指導する従業員は、業務のかたわら教える必要がありますし、教わる従業員は習得中の業務について必要なミーティングがあれば、メイン業務の作業中でも参加しなくてはならず、作業がストップしてしまいます。
また、ジョブローテーションを行っている最中は不慣れな状態が続き、ミスや従業員間のコミュニケーション相違が発生することがあります。作業の手戻りや修正が必要となってしまい、所要時間やコストの増加と生産の停滞により生産性が低くなる期間が出てきます。
生産性が低下すると「多能工化はやはり難しい」と推進しにくくなってしまいます。
マネジメント
従業員の仕事量のマネジメントが難しくなる、という要因です。
例えば、一人の従業員がメイン業務のほかに2つの業務を習得したとします。3つの業務のマネージャーにとってはその従業員の仕事の全体量が見えにくいので、仕事をどこまで任せるか、配分が難しくなります。
また、通常時はメイン業務を行い、繁忙期は他の2つの業務のサポートに入る体制にしたとしても、3つの業務についての情報を当該従業員は常に入手しておく必要があります。そうした従業員に対して、部署が違っても抜け漏れなく情報共有を行うなどのマネジメントが新たに必要となります。
これらのマネジメントをどうすべきかわからず、従業員がスキルを習得しても実際の業務に活かせずじまいになってしまいます。
評価制度
多能工化に適した人事評価制度が整っていない、という要因です。
メインとなる業務以外のスキルも身につけたのに、多能工化による評価制度が新たに設定されずに努力が報酬という形で評価されないと、従業員はやる気を失ってしまいます。
例えば、多能工化でお互いカバーできるようになって忙しい部署の残業が減り、会社としては人件費の削減になります。しかし、カバーした従業員は従来比より密度の濃い仕事をしているわけであり、ここにこそ報いるようにしなくてはならないのです。
さらに、複数の業務について常に情報を頭に入れアップデートしなければならない状況は負担がかかるものですから、そのような努力を評価する制度がないと、従業員はスキルを習得しても積極的に活かそうとはしなくなっていきます。
従業員の負担増
従業員の負担が増加し、心や体に影響が出る、という要因です。
それぞれの業務の負担が大きくなり心身に影響が出てしまうと、仕事を続けられなくなります。
また、関わった仕事を一区切りするところまで見届けたい気持ちがありつつも、他の業務のボリュームに圧迫され中途半端なままになり、仕事のやりがいが薄まりやる気が失われるケースもあります。
それぞれの業務において、同僚とのコミュニケーションがうまくいかなかったり、「不慣れな自分がいることで足手まといになっているのではないか」「ムダが発生しているのではないか」などの不安感を持ったりすることもストレスになります。
こうした、目には見えにくい負担感が蓄積され、離職につながるケースも起こり、「多能工化は無理がある」という抵抗感が生まれてしまいます。
多能工化が進まないときのチェックポイント5つ<
多能工化が進まない要因はさまざまであり、複数の要因が存在している場合もあります。
そこで、要因を明らかにし具体的な対策を考えるためのチェックポイントをご紹介します。全部で5つありますので、早速チェックしてみましょう。
【チェック1】全体のスキルバランスはどうか?
習得する業務の内容や数に、従業員によって大きな偏りがないか、部署全体でのスキルのバランスが取れているかを確認しましょう。
従業員の年次や経験年数、能力や向き不向きによって、どこまで多能工化するかを検討する必要があります。やる気のある有能な従業員にばかり偏ってしまうと、負担感がアンバランスになります。
多能工化は、業務を多くの人で共有することで属人化を防ぐ効果もありますが、偏りがあるとむしろ属人化が進んでしまいます。
職場全体、会社全体で見てスキルがバランス良く多能工化できているか、不必要な多能工化を強いていないかをチェックしましょう。
【チェック2】短期間で終わらせようとしていないか?
多能工化を短期間で終わらせようとしていないか確認しましょう。
業績向上の目標に合わせて半年で完了する、など目標を持つのは重要ですが、人の教育はじっくり取り組むもので、機械的には進められません。自信が持てるレベルになるまでスキル習得を行わなければ、少し業務を聞きかじった人が増えるだけで業務の戦力とならず、多能工化は中途半端になります。
現場は混乱し、従業員の士気も低下しますので、きちんと必要な期間を見積もるようにしましょう。
【チェック3】マニュアルは整備されているか?
業務マニュアルの整備状況を確認しましょう。
多能工化の施策には、マニュアルの存在が欠かせません。マニュアルは、業務手順に加えて、業務の全体像や目的、作業の理由、事例や注意点などが盛り込まれたものですが、マニュアルに基づいてOJTを行うと業務の背景をつかみやすくなり、口頭のみのOJTよりも能率よく指導を行うことができます。
マニュアルではなく、手順書や標準作業手順書(SOP)があれば業務の指導が可能な場合は、それらが多能工化の対象の業務をカバーしているかチェックしましょう。
【チェック4】スキル習得のサポート体制はあるか?
従業員のスキル習得をサポートする体制があるか、またその体制がきちんと運営されているかを確認しましょう。
業務によっては、スクールや専門学校への通学、資格試験の受験、外部研修の受講などが必要になります。必要な学習の提供を確実に行っているかどうか、履修状況や資格取得状況を従業員から報告してもらい、管理職がきちんと管理しているかが重要です。
多能工化のためにジョブローテーションを行う場合は、現場だけでなく人事部門のサポートも重要です。現場のマネージャーの独断や従業員のやる気だけで多能工化を推し進めていないか、人事部門も多能工化の状況を把握しているかをチェックしましょう。
【チェック5】従業員のモチベーションは確認しているか?
従業員が多能工化に関してモチベーションを維持できているか、現行の人事評価制度がモチベーションを支えるものだと感じられているかを確認しましょう。
多能工化になじむ従業員もいれば、メイン業務に集中して取り組みたい従業員もいます。多能工化に向いている従業員であっても、何でもかんでも請け負うのではなくメイン業務に関連性の高い業務に取り組みたいと考えている従業員もいます。従業員の希望通りにすることがベストというわけではありませんが、多能工化により従業員のモチベーションが低下していないかをウォッチする仕組みは必要です。
現場のマネージャーや人事部門のマネージャーが従業員のモチベーションを確認する機会を設けているか、チェックしましょう。
多能工化が進まない際の打開策とは
5つのチェックポイントをご紹介しましたが、いかがでしたか。どこにうまくいかない要因があるのかヒントはあったでしょうか。
次に、具体的な打開策を5つご紹介します。業界や会社によって状況はさまざまかと思いますが、課題を解決する方法としてぜひご検討ください。
1.対象業務の選定
多能工化の対象とした業務を見直し、改めて選定してみましょう。
例えば、旅館の業務では、一人の従業員が客室清掃やフロント業務、レストラン業務を1日の時間帯で分けて兼任することが可能です。住宅のリフォーム業では、水道管、内装、配線などの業務を案件ごとに行うことができます。
「業務の場所が近い」「前後する工程である」「関連性が高く知識を持つとそれぞれの業務で良い影響がある」など、納得感のある業務の組み合わせを選定しましょう。
複数の業務を担当することで重なる時間帯があったり、1つ1つの業務の難易度が高くボリュームもあったりすると、無理が生じます。長期に渡る体制にするのか、繁忙期だけ他の業務をサポートするのか、といった条件も重要です。
2.スケジュールの見直し
スケジュールに無理がある場合は、多能工化を完了させる時期を再度設定し、改めてスケジュールを作成しましょう。
それぞれの業務で必要な育成期間を算出する際には、新人の育成にどれほどかかっているかを把握し、その期間を見積もるようにします。
仕事経験のある従業員であれば新人の育成よりも時間はかからないだろうと考えがちですが、「だろう」で見積もるのではなく、新人と同程度の期間を見積もっておくと、余裕のある計画となります。
3.マニュアルの整備
業務マニュアルや手順書、標準作業手順書(SOP)を整備しましょう。
手順書があれば、指導内容のバラつきを防ぐだけでなく、業務についての情報をそこに集約することができます。過去の事例や年に数回のイレギュラーな案件、困った場合のQAなど、細かなノウハウを蓄積できます。指導をする人も、頻度の低い案件についても抜け漏れなく教えることができますし、指導を受ける人も、教わったことをマニュアルに立ち返って復習でき安心感を持てます。
マニュアル作成ツールなどのツールを使うと、社外の現場やテレワーク先でもスマホやタブレットなどでマニュアルを見ることができますし、他の業務に従事したあとでも追加された情報を確認でき、情報共有の漏れがなくなります。
4.スキル教育の見直し
従業員のスキル教育について見直しましょう。
- 業務に必要な教育の機会をきちんと提供する
- 教育実施の管理などのサポート体制を敷く
- サポート体制の責任者を決める
この3つを確立します。
現場でのOJTだけでなく、専門学校での学習や外部研修の受講、資格の取得が求められるのであれば、必要な教育を洗い出します。そして、いつまでに何を受講するのか、完了したか否かをスキルマップなどで管理します。この管理を行う責任者は、例えばメイン業務のマネージャーと決めて多能工化における評価の責任者とします。
他の業務の仕事量が見えにくい場合は、責任者はその従業員の仕事量を他のマネージャーに聞き、把握するよう努めます。責任者を決めれば従業員が相談しやすくなりますから、従業員の目に見えない負担感を蓄積させないためにも、仕事量を相談できる上司をはっきりさせておきましょう。
5.評価方法の設定
人事評価制度において、多能工化をどのレベルまで求めるかを明確化し、適切な評価を行う体制を作りましょう。
別の業務の知識や手順を頭に入れることは、想像以上に負担のあることです。例えば、製図を読み解きCADで設計する担当者がプログラミングも行う。レジを行う人が、品出しや惣菜づくりも担う。これらの場合、「設計」という業務や「スーパーマーケット」という場所は共通していても、新しいジャンルには新しい情報が付随してきますから、一つひとつに向けられる手間やエネルギーは減少します。
単に業務やスキルの数で評価するのではなく、どのレベルまでエネルギーを向ければどのように評価されるのかを議論し、適切な評価方法を策定しましょう。
そして、責任者である上司が定期的に面談を行い、見えにくい負担感が増えていないか、多能工化について意見はあるか、従業員からヒアリングする場を設けましょう。
まとめ
多能工化は、業務の兼任やマルチスキルの習得とも言われますが、従業員に複数の業務に従事する能力を身につけてもらうことです。
多能工化が実現すると、企業にとって残業コストの削減や繁忙期の処理能力向上などのメリットがありますし、従業員にとっても成長実感が得られることや、職場のコミュニケーションの活性化、休暇を取りやすくなるなどのメリットがあります。
多能工化を実現し、これらのメリットを享受するためにも、うまくいかない要因をあぶり出すチェックポイントを5つご紹介しました。また、チェックポイントに基づき、具体的な5つの打開策について解説しています。多能工化の推進時に、参考にしていただければ幸いです。
以下の「中小企業白書」では、多能工化に取り組んでいる企業の事例もありますので、ご参照ください。
参考資料:中小企業庁 2018年版「中小企業白書」
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