製造業で作業手順書をフル活用するには?作成から運用までの7ステップも徹底解説
2022/07/22
日本の製造業が生み出す製品は質が高く、世界で名の知られている日本企業といえば、自動車、ゲーム、電化製品、素材など、製造業の占める割合が多くなっています。
製造業のものづくりを支えているのが作業手順書です。作業手順書は、多くの製造業で職場に備えているものですが、活用できていますか?「手順を覚えたからもう見ていない」「忙しいから見る暇がない」などの理由で活用されていない状態では、残念な運用状況といえます。
人間は「ミスする」「忘れる」「勘違いする」生き物です。どんなに経験豊富なベテラン従業員でもそうですから、作業手順書の運用体制をしっかり整備し、質の高い製品を作り続けていきたいものです。
この記事では、製造業で作業手順書を活用すべき理由や、作業手順書運用の際のポイント、作業手順書の作成から運用までの7つのステップについて詳しく解説します。製造業の経営者、管理者、現場のマネージャーやリーダーの皆さんに参考にしていただければ幸いです。
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作業手順書を製造業で活用すべき理由
作業手順書とは、作業の具体的な手順や品質基準を定めたものです。ムリ・ムダ・ムラのない最適な手順であり、かつ法律やルールに基づきながら、作業する人の安全を確保した手順を、わかりやすく説明する資料です。
製造業は、同じ製品を同じ品質で数多く生み出す必要があるため、顧客など外部の要因によりサービスに変化のあるサービス業などに比べると、作業手順書の重要性が高くなっています。
作業手順書を、製造業で活用するとよい理由を4つご説明します。
作業工程の標準化
1つ目の理由は、作業工程を標準化するためです。
数々の研究や実験を重ねて完成した製品を、同じ品質で大量に生産するためには、製造の作業工程を標準化し、それを言葉で定義して作業に携わる従業員間で共有する必要があります。
品質のばらつきなく製造でき、誰でも行える再現性のある手順であれば、最も標準的な手順といえます。作業手順書は、その標準的な手順を記録し共有する存在として、将来に向けた研究開発の基準点にすることができます。
製品の品質向上
2つ目の理由は、製品の品質向上です。
標準的な手順で標準的な製品を製造することができたなら、次はさらなる手順の改善や、さらに顧客満足度を高める製品の高品質化に取り組むことができます。
例えば、消費者が日常の手入れをしやすい、あるいは修理担当者が修理や部品交換を容易にできるので修理に日数がかからない、といった製品になるよう、製品を見直します。これは顧客満足度を向上させ、競合他社の製品との差別化になるテーマです。製品の見直しのためには、作業手順書がわかりやすく書かれ、共有されていないと改善アイデアが見えてきません。
製品の品質向上のためには、作業手順書の整備と活用は重要なテーマです。
業務効率化
3つ目の理由は、業務効率化です。
業務効率化とは、ムリ・ムダ・ムラのある工程をなくし、より簡潔な手順や、短時間・少人数で完結する作業にしていくことです。少量のリソースでより多くの製品を生み出す、生産性向上策の一つです。
作業手順書には必要な手順が記されます。わかりやすくするためにフローチャートやチェックリストになっている作業手順書もあります。複数の作業手順書を比較してみると、「この作業の納期が短すぎる」「仕掛品が行ったり来たりしている」「作業後のチェックを行うチームと行わないチームがある」などとムリ・ムダ・ムラのある工程を発見することができます。
一度作業手順書を作成したら終わりではなく、定期的に見直し、手順書同士を比較したり突合したりすることで、より良い手順を見つけ出すことができます。
現場のナレッジ蓄積
4つ目の理由は、現場のナレッジ蓄積です。
現場では、さまざまな従業員が日々、知識や経験に基づく意見や知恵を出し合い、知見を深め、技術力を高めています。
こういったナレッジは、口頭で話し合うだけだとその場にいた人しか恩恵を受けることができませんが、作業手順書という土台があれば、そこにナレッジを蓄積していくことができます。
さらに、作業手順書がわかりやすく、活用しやすいものであれば、新人や初心者を早期戦力化でき、一部の従業員しか知らない希少なノウハウを伝承することもできます。
知識や、知識に基づき行動した実験結果、貴重な技術など、現場で起きている小さなことを蓄積することが、今後のものづくりに大きく貢献します。
製造業で作業手順書を運用する時に意識すべきポイント
次に、製造業で作業手順書を活用していく際に意識すべきポイントをご紹介します。
- 作業手順書がわかりやすいか
- 運用体制の整備
- 定期的な手順書の改訂
これらの3つのポイントについて、具体的に見ていきましょう。
【ポイント1】作業手順書がわかりやすいか
1つ目のポイントは、作業手順書がわかりやすいかです。
わかりやすいとは、現場で働く従業員がどのような人であっても理解できる内容だということです。
従業員にはさまざまな人がいます。特に、製造業の現場では、人手不足により未経験者が就業するケースが多くあります。
新人や初心者、未経験者が理解できる言葉や表現をできるだけ用いて、専門用語や略語には解説をつけるなど工夫することがポイントです。
【ポイント2】運用体制の整備
2つ目のポイントは、運用体制の整備です。
運用体制とは、いつ・誰が・どのように運用するかということです。作業手順書の共有範囲や共有方法、責任者や改訂時期がきちんと定まっていると、作業手順書の内容も常に最新の状態にアップデートされ、活用されていきます。
「内容の変更があるときに手の空いている誰かが修正する」といった曖昧な体制ではなく、どのレベルの変更なのか、誰が修正するのか、具体的に決めておきます。
そのためには、システムやオンラインツールなどを利用するのも一法です。どのようなツールがよいかについては、後ほど解説します。
【ポイント3】定期的な手順書の改訂
3つ目のポイントは、定期的な手順書の改訂です。
作業手順書の内容に変更があったときだけでなく、定期的に改訂することがポイントです。手順などに変更があったにもかかわらず、作業手順書を修正し忘れることがあり得るからです。
作業手順書を常に最新の状態にしておくと、改善や品質向上に役立てられるだけでなく、大きな変化や急な事態が発生した際にもすぐに対応策を講じることができ、有事に強い体制をとることができます。
定期的な見直しの時期は、半年に1回や年に1回など、業務の繁閑を考慮し、取り組みやすい時期を選ぶのがポイントです。
製造業の作業手順書、作成から運用までの7ステップ
製造業における作業手順書は、次の7つのステップで、作成から運用まで行うことができます。
- 課題を基にした目的明確化
- 作業内容の確認
- 手順の洗い出しと分解
- 手順の整理
- イラストや写真の挿入
- トライアル運用
- ツールの利用
先ほどご紹介した3つのポイント(作業手順書がわかりやすいか、運用体制の整備、定期的な手順書の改訂)も踏まえて、詳しくご説明します。
【ステップ1】課題を基にした目的明確化
作業手順書作成の第一歩として、課題を基にした目的の明確化を行います。
現在認識している課題や組織の目標から、どのような作業手順とするかを明らかにします。
例えば「好調なA商品に人的リソースを投入するため、B商品の製造工程を最小化する」という方針が決まったとします。
この場合は、A商品の製造には人手を投入して短時間で工程を進める作業手順を検討し、B商品の製造には人手のかからない最低限の工程の作業手順を検討することになります。
その上で、既にある作業手順書を改善すれば済む場合もありますし、クリアすべき課題や目標によって、新たな規定やルールを確認の上手順書を作成しなければならない場合もあります。
まずはその作業の目的を明確にし、検討や確認の範囲をつかみましょう。
【ステップ2】作業内容の確認
次に、作業内容を確認します。
作業の内容、順番、所要時間、タイムスケジュール、次の工程までの納期、作業の頻度などについても確認します。
さらに、必要となる事前準備、材料、使用する道具、作業人数、役割分担、作業後の製品の状態やレベル、作業後に行うことなどを挙げます。作業手順書の作成に必要な要素を用意しましょう。
【ステップ3】手順の洗い出しと分解
次は、手順の洗い出しと分解です。
ステップ2で確認した作業手順について、具体的な手順を洗い出して、行う順番に記録します。
それらをグルーピングし、いくつかの項目にまとめます。順番が前後してもよいものや、この工程を経てから次の工程があるなど順番が前後しないもの、同時に作業をスタートすべきものなど、手順に付帯条件があるならば、それらも記載しておきましょう。
【ステップ4】手順の整理
次は、手順の整理です。
ステップ3でグルーピングした手順を記録し、実際に作業しながら手順が適切なものであるかを確認します。
実際にやってみると時間や人手がかかるもの、イレギュラーが多く発生するもの、事前の工程からの待ち時間が多いものなど、いろいろあります。手順の追加・削除・並び替えなどをして、手順を見直しましょう。
そして、わかりやすい言葉や表現になっているかも見直します。わかりやすいとは、その仕事を初めて行う人が読んでわかるレベルです。専門用語は解説を付け、短文で端的に表現し、難しい言い回しはできるだけ避けましょう。
【ステップ5】イラストや写真の挿入
次に、イラストや写真、動画の挿入を行います。
文章による骨格が出来上がったら、読み手により伝わりやすくするために、イラストや写真、動画、図、表などを入れていきます。
特に製造業における作業手順は、名前のない部品や言葉で説明しづらい製品の状態を表現するケースが多いものです。イラストや写真なら一目瞭然ですので、できる限り挿入しましょう。
液体の状態や、作業中の音、色などを伝えるために、動画を挿入するのも伝わりやすい工夫となります。
このステップで、作業手順書が一通り完成となります。
【ステップ6】トライアル運用
いよいよ、作成した作業手順書のトライアル運用を行います。
作業手順書が完成したら、以下のような運用ルールを決めます。
- 共有範囲
- 共有方法、共有ツール
- 改訂時期
- 改訂の責任者
このルールに沿って運用し、手順書の内容や運用ルールについて、問題がないかを確認します。
- 手順書の手順が守れているか?守れていない場合の理由は何か?
- 新しく職場に来た人への手順書の共有がスムーズにできたか?共有方法に抜け漏れはないか?
- 決めた改訂時期に改訂作業ができたか?改訂作業に問題はないか?
このような項目について見直し、問題がないようであれば、運用を開始します。
【ステップ7】ツールの利用
最後のステップは、ツールの利用です。
作業手順書作成にどのようなツールを使うかは、企業それぞれの状況があります。WordやExcelのデータ、オールインワンのグループウェア、オンラインツールなど、さまざまな選択肢があります。
わかりやすく改訂もしやすい作業手順書によって確実な作業を行い、組織の目標を達成していくためには、次のようなツールを利用するとよいでしょう。
<作成しやすい>
- シンプルな操作画面
- テンプレートがあり、フォーマット作成に悩まなくて済む
- 操作に困った際のサポートがしっかりしている
<閲覧しやすい>
- 写真や動画の再生がスムーズ
- スマホやタブレットなど、複数の媒体で閲覧可能
- オンラインでどの場所からでも閲覧可能
<運用しやすい>
- 改訂すべきポイントに書き込みできる
- 全社的にフォーマットを統一でき、運用ルールも統一できる
- セキュリティが万全である
まとめ
この記事では、製造業において作業手順書を活用すべき理由や、作業手順書を運用する際のポイント、作業手順書の作成から運用までの7つのステップについてご紹介しました。
製造業では、一定の品質の製品を数多く生産するために作業工程を標準化する必要があります。また、製品の品質向上や作業工程の効率化、現場のナレッジ蓄積のため、作業手順書を活用することは製造業において特に重要なテーマです。
製造業の現場には、新人や初心者、未経験者などさまざまな従業員がいます。あらゆる従業員にとって見やすくわかりやすい手順書を作成し、運用体制を構築するには、ツールを利用するのがお勧めです。
ツールは、スマホやタブレットなど閲覧媒体の選択肢が多く、手順書を見たいときに見られるので必要なタイミングに手順書を活用しやすくなります。自社の業務に合うツールがどんなタイプのものか、ぜひ検討してみてください。
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