社内DXが必要な理由とは?現状の課題と成功させる秘訣をわかりやすく解説!
2023/03/13
DX(デジタル・トランスフォーメーション)とは、わかりやすくいうと「デジタルで表現されるIT(情報技術)などの手法」によって「トランスフォーム(大きく変容)する」ことです。つまり、行政や企業がテクノロジーを活用することで人々の生活を変化・向上させることを意味しています。
日本では、経済産業省が2018年にまとめた「DXレポート」の中で、DXによる競争力の確立や推進のガイドラインを示しています。企業はDXに取り組み、ビジネスを根本的に変えていくと同時に社内のDXにも取り組み、効率性の向上や従業員の働きやすさを実現していくフェーズにあります。
そこでこの記事では、社内DXの意味や、社内DXが必要な理由・浸透していない理由、浸透させるポイントについてご紹介します。社内DXに取り組み、成功させたいとお考えの方に向けて、わかりやすく解説します。
社内DXとは?
社内DXとは、企業内のDXを行うことです。
DXは、システムインフラの再構築によって、顧客や取引先に対する基幹業務の業務プロセスやビジネスモデルなどの構造的な変革を行うことであり、社内DXはデジタルツールの活用によって労働効率や組織体制を変革していくことです。
具体的には、人事や経理、総務などの管理業務や伝達手段(メールやチャット、会議などのコミュニケーション)、ナレッジを継承するための取り組み(研修や指導、マニュアルなど)について、ツールを用いることで業務効率を改善し、生産性の向上をはかります。
DXと社内DXは別々のベクトルを向いているのではなく、社内DXを基礎としてDXが加速するイメージです。社内DXを実現することで人手や時間などのリソースをより多くDXに投入していけるようになり、企業全体のDXの取り組みをより発展させることにつながります。
社内DXが必要な4つの理由
企業において社内DXが必要となる理由が4つあります。
- 企業の競争力強化
- 働き方改革の実現
- 「2025年の崖」への対応
- BCP対策
どのような理由か見ていきましょう。
企業の競争力強化
1つ目の理由は、企業の競争力強化です。
IMD(国際経営開発研究所)が1989年から発表している「世界競争力年鑑」は、世界の経済圏について、経済状況・政府効率性・ビジネス効率性・インフラの4つの大項目で審査する調査です。
2022年度は、世界63の経済圏の中で国としての評価は、日本は全体で34位であり、そのうち企業に関する項目であるビジネス効率性では51位、インフラは22位と低迷しています。日本の社会全体でITの活用が進み、小学校などでも情報端末を使用した授業が普及するなど前進はしているものの、国際的な競争力が下降傾向にあります。
企業は売上拡大の目標を達成するだけでなく、さらに生産性の高い業務プロセスを模索し続けないことには、競争力強化は望めません。
働き方改革の実現
2つ目の理由は、働き方改革の実現です。
厚生労働省は「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」などの背景から、働き方改革(長時間労働の是正や柔軟な働き方がしやすい環境整備など)を推進してきました。
働き方改革を実現することで、居住地や勤務時間などの制限で労働できなかった人材が就業できるようになり、企業の労働人材の確保につながりますが、これには社内DXに取り組んでいることが前提条件となります。
例えば、居住地の制限が緩和できるテレワークは、社内DXが進まないと持続できません。「経理は伝票が紙だから、出社しないと仕事にならない。テレワークの日は報告書作成など、限られた業務しかできていない」と話す人もいます。
社内DXを推進し、ペーパーレス化や業務プロセスの自動化など、業務のデジタル化をしないことには柔軟な働き方が難しく、労働人材の確保につながりません。
「2025年の崖」への対応
3つ目の理由は「2025年の崖」への対応です。
冒頭に挙げた経済産業省の「DXレポート」(2018年)の中で、DX推進のガイドラインとともに「2025年の崖」が言及されています。
「2025年の崖」とは、2018年に既存していた複雑化・老朽化・ブラックボックス化したシステムが今後も残存した場合、2025 年までに運用や保守を担うIT人材が引退したりサポートが終了したりするため、2025年以降は1年で最大12兆円の経済損失が試算される、という問題です。
既存システムの不具合や故障、性能・容量不足による業務への影響や、サイバー攻撃などによるデータ滅失・流出の可能性を試算するとこの数字となり、2025年を境に経済損失が大きく足を引っ張ることから「崖」と表現されています。
老朽化したシステムを使い続けている企業は、もはやDXは待ったなしの状況であり、そのためにも社内DXを推進してリソースをDXに投入していく必要があります。
BCP対策
4つ目の理由はBCP対策です。
BCP(Business Continuity Plan)とは、災害やシステム障害といった危機的状況下でも重要な業務を継続できるように、方針や組織体制、業務の具体策などを定めた事業継続計画のことです。
日本では、2001 年 9 月に米国で発生した同時多発テロの際に、初めてBCPが注目を集めました。テロだけでなく、地震や台風など自然災害が多い日本では特に、危機的状況がビジネスへもたらす影響を考えるべきだという考えが広まり、今は多くの企業がBCPを策定しています。
社内DXが進むと、顧客への情報伝達や従業員の業務継続、データのバックアップなどが容易かつ確実性の高いものになり、危機的状況下でも業務運営を通常に近づけることができます。社内DXはBCP対策ともなるゆえんです。
社内DXが浸透しない原因
社内DXが必要な理由はあるものの、まだ多くの企業ではDXや社内DXが推進されていない、浸透していない状況があります。総務省の情報通信白書(令和3年版)では、約6割の企業が「実施しておらず、今後も予定がない」と回答しています。
社内DXが浸透しない原因としては、時間やコスト、人材、規制や業界慣習など、企業がおかれている状況によって原因はさまざまですが、ここでは多くの企業に共通する原因を3つご説明します。
経営層の認識の甘さ
1つ目の原因は、経営層の認識の甘さです。
前の章で社内DXが必要な理由として、企業の競争力強化や働き方改革の実現、「2025年の崖」への対応、BCP対策の4つを挙げました。どれも差し迫る理由ばかりですが、一方で明確な期限のない課題ではあります。
期限や法的拘束力のない課題では、やはり同じように差し迫った売上拡大などの課題の方に目が向けられるのは仕方のないことかもしれません。また、従業員の努力によって業務がスムーズに回っていると問題意識を感じず、社内DXで従業員の手間が減らせることに思い至らない場合もあります。
DXに取り組まないことによるリスクの大きさと、社内DXによって業務が効率化されれば生産性の向上につながるメリットの大きさを、経営層は改めて認識する必要があります。
従業員のリテラシー不足
2つ目の原因は、従業員のリテラシー不足です。
リテラシーとは「読み書きによって物事を理解し活用できる能力」であり、この場合は、社内DXについての情報を把握し、活用できる力が不足している、という意味になります。
具体的には「今どのようなデジタルツールがあるのか」「他社はどんな社内DXに取り組んでいるのか」「自分が担当している業務でDXを活用できないか」と考え、DXに関心を持ち自発的に情報収集を行う従業員が少ない、という状況です。もしくは、情報収集はしても、社内でDXを推進する方法がわからない、時間がない、といった状況もあるでしょう。
これらの状況が積み重なることで、従業員の社内DXリテラシーが不足している状態となります。
従業員が今行っている業務プロセスは、これまでの状況下ではベストと考えられるものだったかもしれません。日々技術は進化し、状況は変化していますから、「他に効率のよいやり方はないのか」とクリティカルに見つめることが、社内DX推進につながります。
DX人材の不足
3つ目の原因は、DX人材の不足です。
経済産業省の「IT人材需給に関する調査」によれば、今後労働人口は減少するものの、DX人材については2030年までは増加が見込まれます。しかし、今後労働生産性が改善されない場合は、需要と比較すると2030年に45~79万人(シナリオによる幅あり)不足する試算があります。
社内DXを推進するにはDX人材が不可欠ですが、人材の争奪戦になる可能性があるといえます。
この試算は労働生産性が現状の水準であり続ける場合の前提ですから、まずは各企業が事業や業務プロセスの見直しを行い、労働生産性を高めていくことが求められます。
そして、人材不足対策としては、DX人材をできる限り確保することや、外部ベンダーとのリレーションを深めることなどがあります。
社内DXを浸透させるポイント
社内DXを浸透させ、推進していくためのポイントが3つあります。
- 経営戦略に掲げる
- DX人材の確保
- 社内DXのためのツールの利用
どのようなポイントか、一つずつご紹介します。
経営戦略に掲げる
1つ目のポイントは、社内DXを経営戦略に掲げることです。
社内DXに取り組むことで何を実現するのか、目的を明確にします。その上で、どんな社内DXに取り組むのか、シナリオを策定し、経営戦略に盛り込みます。
例えば「従業員のワーク・エンゲージメント向上」を目的にするのであれば、社内SNSの活用によってコミュニケーションを活性化させる、ナレッジマネジメントシステムの導入で業務スキルの相互補完をはかる、といったシナリオが想定できます。
経営戦略に社内DX施策を盛り込み、内外に宣言することによって、従業員の社内DXについてのリテラシーを高めることにもつながります。
DX人材の確保
2つ目のポイントは、DX人材の確保です。
社内DXの推進には、社内のシステム部門の人材や外部ベンダーの人材が必要となります。単に技術を有するだけでなく、自社の方針を理解した上でプロジェクトをマネージできる人材も求められます。
企業の魅力を就職希望者にしっかりと伝えることで社内のDX人材をできる限り確保すること、自社に適した外部ベンダーを選ぶこと、確保した人材に適切な環境を提供することなどに取り組んでみましょう。
また、DX人材が不足する傾向にあるからこそ、今から少しずつ社内DXに取り組みシステムの運用や保守に必要な人員を減らしていくことや、従業員全員でDXに関する研修を受講し知識の底上げをすることなどで、人材不足を乗り切る考えもあります。
社内DXのためのツールの利用
3つ目のポイントは、社内DXのためのツールの利用です。
経済産業省の「DX レポート2中間取りまとめ(概要)」(2020年)では、DX・社内DXの加速に向けて企業が取り組むアクションを紹介しています。その中で社内DXについてのアクションには、例えば次のものがあります。
- 業務環境のオンライン化
( テレワークシステム、オンライン会議システムなど) - 従業員の安全・健康管理のデジタル化
(活動量計、人流の可視化、アンケートツールなど) - 業務プロセスのデジタル化
(OCR製品、クラウドストレージ、SaaS、RPA、オンラインバンキングツールなど)
ここに挙げた例以外にも、次のようなツールがあります。
- タスク管理ツール
- ナレッジマネジメントシステム
- マニュアル作成ツール
- BI(ビジネス・インテリジェンス)ツール
- 経費精算システム
- 会計ソフト
- 人事管理システム
社内DXで実現したい目的に合うツールをリサーチしましょう。従業員にとって使い勝手がよく、自社システムと親和性のあるツールを選ぶとよいでしょう。
社内DXの事例
社内DXに取り組み、成果を挙げた企業の事例を2つご紹介します。
オンラインでの業務完結化
飲料メーカー大手のA社では、ペーパーレスによる働き方改革に取り組んでいます。
契約書や稟議の作成、捺印作業などをペーパーレス化し、オンライン上で完結することで業務効率化・コスト削減を実現。以下のような成果がありました。
- 紙回付、発送の工数削減(創出時間約10万時間/年)
- 社員約1万人がオンライン上で利用
- 契約書の紙代、印紙代、郵送代の削減
- 300万枚/年の紙を削減し、約18トンのCO2排出を削減
新しい働き方を実現したことで、経済産業省と東京証券取引所によるDX銘柄に選定されています。
RPAによる業務の自動化
損害保険大手のB社では、RPA(Robotic Process Automation:デスクトップ作業のプロセス自動化技術)を導入し、顧客サービスの向上に取り組んでいます。
従業員のPC操作を分析したところ、従業員のPC操作のうち約2割が自動化できることが判明。本格的なRPAに取り組み、業務プロセスを最適化したところ、以下のような成果がありました。
- 事故受付業務を社員に代わってロボットが自動処理化することで所要時間を短縮し、迅速な顧客対応を実現
- 自動車保険の見積書作成を支援するアプリによって、代理店の見積書作成作業を軽減
社内DXが、顧客サービス向上のDXにつながった好例です。
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まとめ
今回は、企業における社内DXについて、社内DXが必要な理由や導入が進まない原因、導入を推進するポイントや実際の事例をご紹介しました。
社内DXは、競争力の強化や働き方改革、2025年の崖やBCPなどへの対策として必要性が高まっています。社内DXを経営戦略に掲げ、DX人材を確保しながら、自社に適したデジタルツールの検討を進めてみてください。
ご参考:
- 経済産業省「DXレポート」(2018年)
- IMD(国際経営開発研究所)「世界競争力年鑑」(2022年)
- 厚生労働省ホームページ
- 総務省「情報通信白書」(2021年)
- 経済産業省「IT人材需給に関する調査(概要)」(2019年)
- 経済産業省「DX レポート2中間取りまとめ(概要)」(2020年)
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